即断即決が必ずしも良いことではない

保田 このシリーズに登場いただくのは岩田さんで3人目になるのですが、キャッシュと時間についてお話しされたのは岩田さんがはじめてでした。たしかに、キャッシュと時間の概念はファイナンスの基本中の基本ですが、ファイナンスを経験されている経営者ならではの視点ですね。

岩田 私はやはり経営者の視点が常にあって、今日の話は会計とファイナンスに特化しているけど、経営者にとって必ずしも即断即決がいいことではないと思っています。今やらないとダメだというときは、もちろん、いま決めないといけません。だけど、締め切りのタイミングが明日とかあさってとか1週間先だったら、今その場で決める必要はないと思うんですね。「今決定をしない」という選択肢も用意するわけです。要するに、情報は多く集まれば集まるほど、それだけ正しい判断がしやすくなります。時間があったら、自分が現場へ見に行ってみる、新規出店候補の立地へ行ってみるとか、そういうこともできるわけです。それを踏まえてから最終判断をしたらいいのです。

保田 最近のスピード経営とは逆行しているようにも見えますが。

岩田 だから、その意味でも意思決定を要するときは期限を決めないといけません。今なの? 明日なの? 1週間先なの? ということを、まず聞くわけです。経営不振の会社を再生させるときは特に重要で、いつつぶれるのですか? 来月つぶれるのか? 1年先につぶれるのか? それによって、打つべき手も違ってくるわけです。早い決断をすることが正しいのではなく、会社にとって良い決断をすることが正しいのです。私は、それが経営者に求められていることだと思っています。

保田 ありがとうございます。最後の質問になりますが、今後、岩田さんはどうされるご予定ですか?

岩田 いずれまた社長をやってみてもいいと思っていますが、いまは講演と執筆で目一杯忙しくしています。これはたまたま本が売れただけのことですから、すぐに私など忘れ去られていくと思っていますが、経営者を育てる、経営者のリーダーシップを進化させる、という自分のミッションがありますから、その手段として講演したり本を書いたりしています。4月からは立教大学のビジネススクールでも教えることになっています。
 それから、葉山社長大学というのをこれから始めようと思っています。経営者を集めて、ちょっと青臭い話をしようと考えています。葉山というところは、たまに行くとすごく気分が変わります。やはり海と富士山が見えるのはいいですね。そうやって日常生活から離れて、自分たちの会社の使命やミッション、ビジョンを考えてみたり、ブランドをどうつくっていくかを考えたりする場があったらいいと思っています。まず「ミッション」から始まるというのは私の持論であり主張であって、その先に「リーダーシップ」が出てくると私は思っています。あと、「インテグリティ」という概念も大切にしています。

田中 インテグリティは私も大切にしていて、自分の会社の社名でもあります(笑)。

岩田 経営者でもミッションの先にリーダーシップがあるのですが、結局、経営者のインテグリティが一番大事だということに至るんですね。とても青臭い話しですが、やはり私は日本が大好きなんです。日本人も大好きです。日本をもっと良い国にするために何をすべきで、何ができるか。私は、リーダーを育てる、経営者を育てる、ということをやりたい。日本の教育は、リーダーを育てない教育です。日本では、「エリート教育」と聞くと反射的にネガティブに受け取られがちですが、組織には必ずリーダーが必要だし、優秀な人にリーダーになってもらわないと困ります。この人たちにリーダーはノブレス・オブリージュ、つまり、大いなる責任を伴う、ということを伝えていきたいですね。