取材を終えて

 今回のインタビューに臨む前、私は、スターバックスのお店でスタッフの方たちに岩田氏について聞いてみました。同氏のことを「松雄さん」と親しみを込めてエピソードを話してくれた店長さん、CEO在任中に全スタッフ向けに送り続けたマネジメント・レターを今でも大切に保管しているスタッフさんを見たとき、私は、「元社長にもかかわらず、なぜ、こんなにもみんなから愛されているのだろう?」と不思議に思っていました。

 そんな岩田氏の魅力は、インタビューを始めて間もなくわかりました。ご自身の著書にも書かれているとおり、惚れ惚れするような輝かしい経歴とは裏腹に良い意味で普通のおじさんという印象です。物腰の柔らかい話し方には飾り気がなく、実績をひけらかすわけでもありません。その反面、確かな実績に裏打ちされた自信や信念が会話の端々から感じられ、お話しされている内容に強い説得力があるため、どんどん同氏の世界に引き込まれていくのです。

 岩田氏は、ご自身のことをジェネラリスト型の経営者、いわゆる典型的なCEOタイプであると自己分析されていらっしゃいます。実際、日産自動車時代には、バリューチェーンのほぼすべてにわたる業務を経験されていらっしゃいます。もっとも、米国ビジネススクールでファイナンスを専攻され、その後もファイナンス実務に従事されていたため、ファイナンスの理論も実務も専門家とそん色のない高いレベルのスキルと経験をお持ちです。CEO岩田氏のもとで働くCFOには、相当高度なインサイトがないと評価してもらえないでしょう。

 岩田氏の著書を拝読したところ、どちらかというとクリエイティブと感性に強い「論語」型経営者という印象を持っていましたが、財務データなどのファクトをひとつひとつ積み上げて意思決定するという「算盤」の部分も非常に強く、高いレベルでバランスの取れた経営者であると感じました。実は、有効な打ち手を考えるために月次決算を早く締める、という基本を重視する姿勢は優れた経営者に共通している要素です。

 「ミッション」をテーマに多くの著書を書かれている岩田氏は、「利益は目的でなく手段である」と説いており、財務戦略の中ではどのように折り合いをつけていくのか、ぜひインタビューの中でお聞きしたいと考えていました。これに対する「相矛盾した経営課題に答えを出すのが経営者の仕事である」という答えは、同氏の人柄や信念がもっとも垣間見られたような気がして、私もとても清々しい気持ちになりました。


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