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アマデウスたち

加藤久仁生
鉛筆一本で描く豊かな映像世界

週刊ダイヤモンド編集部
【第96回】 2009年10月23日
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加藤久仁生
写真 加藤昌人

 写実とはかけ離れた映像表現が、むしろより現実味を持って、観る者の胸に刺さることを、オスカー受賞作「つみきのいえ」はあらためて教えてくれた。

 海面の上昇を避けるように、階上に建て増しした煉瓦造りの家は、いまや最上階だけが海面から顔を出している。時間とともに積み上げてきた人間関係の確かさと不確かさ。学生時代にそれを象徴的に描いた一枚の絵からイメージをふくらませ、12分3秒のショートフィルムに仕上げた。

 妻に先立たれたひとり暮らしの老人は、いつも口にくわえているパイプを水没した階下に落としてしまう。ダイビングスーツを着込み、それを拾いに潜る老人。下の部屋へ下の部屋へと進むたび、記憶がフラッシュバックのように蘇る。病に伏せる妻を気づかい、その口に食事を運んだ日々、楽しかった孫との語らい、娘が初めて婚約者を連れてきた日の戸惑い――。老人の回想と観る者の記憶が絡み合い、わずかな時間のなかで、さまざまな感情がわき上がる。

 セリフもテロップもない。フルデジタルの時代に、セル画を1枚1枚鉛筆で描く。押し付けがましい演出や過剰な視覚表現が排除されているから、観る者は記憶の底から呼び起こされた感情に素直に向き合える。

 オスカーを受賞して、「劇場で上映される長編映画を作りたいという思いが強まった。描きたいのは悲しみを笑いに転化できるような人間ドラマ」。可能性がまた一つ広がった。

(ジャーナリスト・田原 寛)


加藤久仁生(Kunio Kato)●アニメーション作家 1977年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、2001年ロボット入社。「つみきのいえ」で08年仏アヌシー国際アニメーション映画祭大賞、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、09年米アカデミー賞短編アニメーション賞など受賞。

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