2013年9月、NTTドコモは、iPhone発売へと大きくかじを切ったが、その効果は期待はずれとなった。新型端末の発表も見送られた。ドコモの調子がなんだかおかしい。ドコモに何が起きているのか取材した。

新OS「Taizen」搭載端末
直前の発表延期は
iPhoneの不調が理由

 2014年 1月16日、NTTドコモはこの日に向けて、新製品の発表会を開こうとひそかに準備を進めていた。会場は、勢いがあるIT系企業の入った、東京・渋谷ヒカリエを押さえ、発表者の加藤薰社長も準備に余念がなかった。

 プレゼンだけではない。iPhoneの発売式典で、スタイリストをつけたにもかかわらず、第1ボタンまで留めた白いシャツ姿が不評だったこともあり、銀座の老舗仕立屋でジャケットを新調するほどの力の入れようだったという。

 その新製品とは、ドコモが韓国サムスン電子、米インテルらと開発を進めてきた、新しい基本ソフト(OS)「Tizen(タイゼン)」を搭載したスマートフォンだ。米アップルの「iOS」、米グーグルの「アンドロイド」に次ぐ、〝第3のOS〟の搭載端末として、「ドコモ側は華々しくデビューさせるはずだった」(広告宣伝関係者)。
 ところが、異変は年末に起こる。関係者に向けて案内を送る準備がほぼ整った段階で、急遽ストップがかかった。

 度重なる検討が繰り返された結果、「端末は出来上がっている」と訴える開発陣を袖にし、16日当日の幹部会議にて、導入を見送る決定を下したのだ。
 いったい何が起きたのか。実は、13年9月のiPhone導入後も、スマホの販売台数が想定ほど伸びてこなかったのだ。

 当初、人気のiPhone5sは品薄となっていた。11月に入り、在庫が潤沢になったころには需要が一巡。「11月下旬~12月前半が思ったより伸びなかった」(販売代理店幹部)。それでもトータルで見れば、スマホではiPhoneが人気のため、アンドロイド端末があおりを受け、「iPhoneの次に売れたのが、従来型携帯だった」(ドコモ幹部)というありさまだ。

 結果として、「市場全体が思ったよりも伸びず、正直、目標達成は苦しい」(鳥塚滋人販売部長)といい、スマホの年間販売1600万台の達成は厳しそうだ。
 そうした状況で、売れるかどうかもわからないもので勝負に出ることはできないとなったわけだ。

 とはいえ、新聞紙上では、13年12月の契約数が「iPhone効果で2年ぶり、純増トップ」と、ドコモの好調ぶりを伝える文字が躍る。ところが、これにはカラクリがある。本誌調査によると、新規契約数から解約数を除いた「純増数」約28万件のうち、およそ15万件が〝水増し”とみられる。この件数は、ドコモの通信網を借りて格安の通信サービスを行う、イオンやNTTコミュニケーションズ(OCN)などのMVNO(仮想移動体通信事業者)の純増数である。

もうやめられない
「月々サポート」で
起動した“時限爆弾”

  そもそもドコモがiPhoneを導入した理由は、顧客流出が止まらないことにあった。10年にソフトバンクがiPhone4を発売してから潮目が変わり、11年にKDDI(au)までもが導入したことで、ドコモからの流出は決定的となった。

 電話番号をそのままにキャリアを乗り換える制度(MNP)を利用して、他キャリアに移った客は、06年の制度開始後、これまでに累計で約580万人に達する。契約者シェアで見ても、ソフトバンク参入後、ドコモは40%台まで落ち込んだ。MNPの流出顧客が月額7000円払っているとすれば、年間約5000億円の減収になる計算で、結果、ドコモの収益性を示す営業キャッシュフローは、明らかに細っている。

 iPhone導入後、MNPによる流出は改善されたものの、まだ止まったわけではない。スマホの販売を伸ばし、事実上の値上げとなる、従来型携帯電話からスマホへの移行も滞っている。

 さらに、深刻なのは、販売不振を取り繕おうとして「時限爆弾」を抱えてしまったことである。その前に、スマホ販売の仕組みについて触れておきたい。

 例えば、定価8万円のスマホを購入した場合、利用者の実質負担は、おおむね1万円程度となる。購入の際には、2年間の割賦契約を結び、端末代金を分割払いする代わりに、毎月3000円ほど通話・通信料が安くなる割引サービスがあるからだ。ドコモの場合、「月々サポート」という。

 キャリアからすれば、6万円ほどかけて端末を仕入れるので、端末代金8万円から引いた2万円が粗利益となる。ただ、販売代理店に支払う手数料が1万円かかり、月サポの費用も2年間で7万円かかる。収入となるパケット通信料も定額のため、それだけではキャリアの収支はトントンといったところだ。

 無料通話アプリの普及などにより、音声通話の利用も望めないため、もうけるには、新しいコンテンツサービスを利用してもらう。そう考えドコモは「新領域」として、自前のEコマース「dショッピング」などの利用を促している。

 ここで、問題となるのは、月サポの負担だ。店頭では「実質0円」と打ち出すことができ、販売を伸ばし利益を出す「打ち出の小づち」。だが、2年間にわたる割引により収入が減る上、スマホの利用者が増えれば増えるほど負担が雪だるま式に膨らむのだ。