『FREE』の著者で米「ワイヤード」編集長であるクリス・アンダーソン氏の出世作と言えば、2004年に同誌上で発表し、その後書籍化されベストセラーとなった『ロングテール』だ。話題作を次々と世に送り出す異才の思考の航跡を、2006年のインタビューから浮き彫りにしよう。

クリス・アンダーソン
(Chris Anderson)
英「エコノミスト」誌のテクノロジーエディターなどを経て、2001年、米国の有力テクノロジー雑誌「ワイアード」編集長に就任。インターネットの普及で従来埋もれていた商品が容易に注文できるようになり、ニッチ商品の販売総額がヒット商品のそれを上回ったという現象を指摘した著作『ロングテール――「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』(早川書房)が世界的なベストセラーとなり、一躍著名人の仲間入り。2009年に刊行した『FREE <無料>からお金を生みだす新戦略』(NHK出版)も16万部を超すベストセラーとなっている。ジョージ・ワシントン大学で物理学の学位を取得、カリフォルニア大学バークレー校で量子力学と科学ジャーナリズムを専攻。「ネイチャー」「サイエンス」といった科学雑誌での記者経験もある。
Photo by Rick English

 たとえば、世にあまたある書籍を、販売額を縦軸に取って左側から多い順に並べたとする。現出するグラフは、急斜面の後、緩やかな坂が続くスキー場のスロープのような感じになるはずだ。見ようによっては、恐竜の背中から長い尾が続いているようでもあるだろう。これは、数少ない“売れ筋”の販売が突出するのに対して、残りはどんどん売れ行きが鈍るためだ。

 従来のリアルの世界では、この尾の部分は「死に筋」として忌避されてきた。だが、低コストで運営できるインターネットの普及で、「死に筋」は収益を生み出す立派なニッチ商品に変身した。それどころか今では書籍などの複数の市場でニッチ商品の販売合計額がベストセラー商品のそれを上回るようにもなっている。

 私は2004年に、この現象を定量的に証明し、“ロングテール(長い尾)”と名づけ、「ワイアード」誌上で発表した。その後、この呼称が広く普及したことはITになじみのある人には説明不要だろう。

 ロングテール現象は、いまやありとあらゆる分野で見られる。

 たとえば、テレビ業界。コンテンツ量で他を圧倒する「ユーチューブ」などのビデオサイトにどんどん視聴者を奪い取られている様は、書籍や音楽業界を襲ったのと同じ荒波が押し寄せていることを物語る。