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新興国リスクと日経平均の急落 - 僕はこの下げを買う - 広木隆「ストラテジーレポート」

1営業日でレポート更新

自分で言うのもなんだが、僕のレポートは凝りに凝って書かれている。例えば前回のレポートなどはその典型例だ。「期待の膨張と収縮」というタイトルからして「期待」=「気体」にかけていて、それが「固体の膨張と収縮」に連想がつながるような仕掛けである。信用乗数がたまたま6倍であることと、日銀の追加緩和に対する市場の期待が失望に変わるリスクを結び付けて、あのようなオチになっている。ひと手間もふた手間もかけて、それなりに「ひねり」を加えているのである。

「ストラテジーレポート」の執筆は僕の本業であるが、それに専念する時間がなかなか取れないのが悩みである。他のいろいろな用事に忙殺されているからだ。講演、取材、テレビ・ラジオ等メディア出演、そしてそれらの準備。接待、会食、(夜の)クラブ活動、デート、出張、出張先での(夜の)クラブ活動、など時間がいくらあっても足りない。

それらの合間を縫って、ひと手間もふた手間もかけて書き上げたレポートはできるだけ多くのひとに読んでもらいたいと思う。なので、すぐにはレポートを更新せずに一週間程度はそのままホームページに掲載しておくことが多い。「村上さんみたいに更新頻度をあげろ」とのお叱りも頂戴することがあるが、決してサボっているわけじゃないのだ。前回のレポートは先週金曜日にアップしたばかり。本来は週末くらいに次のレポートを出そうと思っていた。そしてその間は他の用事 ― (夜の)クラブ活動など ― に精を出そうと決めていた。

ところが!新興国不安の高まりから世界同時株安の様相を呈してきた。ついに日経平均も1万5000円の大台割れである。これでは何も書かないというわけにはいかないじゃないか (T_T)! と、いうよりも、世界中の株式市場や為替など、マーケットがこれだけ荒れている状況で、「6倍に膨らむ」というレポートをそのままにしているほうが間抜けである。

アルゼンチン・ペソの急落などどうでもよいこと

ということで、マーケットについて書こうと思うのだが、ここまで読んでこられた読者は、まったく緊迫感のない文章に呆れられているかもしれない。アルゼンチン・ペソが急落し、トルコ・リラなど他の新興国通貨にも動揺が波及、中国では理財商品のデフォルトも懸念されるなか新興国全般の不安が高まりマーケットは一気に「リスク・オフ」ムードが強まっている。先週金曜日、米国株式市場でダウ平均は300ドルを超える急落となり、週明けの日本株式市場も売り一色、日経平均も1万5000円の大台を割り込んだ。

こんな状況でありながら、つらつらと、どーでもいいようなことを述べて一向に本題に入ろうとしない。緊張感のかけらもないじゃないかっ!とお怒りの方もいるだろう。

その通りである。まったく緊迫感はない。投資で最悪なのは狼狽して冷静な判断ができなくなることである。周囲が、やれアルゼンチンだ、トルコだ、中国のシャドーバンキングだ、と騒いでいるときこそ、冷静になるべきである。騒ぐ輩はいつも騒ぐ。そもそも騒ぐネタは尽きない。「今そこにある危機」という、ハリソン・フォード主演で映画化もされたトム・クランシーの小説があるが、「危機」なんてものは常にそこらじゅうに転がっているのだ。何かしらの「危機」=「リスク」を取り上げようと思えば、いつでもできる。問題は、その深刻度である。

はっきり言って - というか極論を言えば - アルゼンチン・ペソの急落なんてどーでもいい問題である。まったく気にする必要はない。(それでもどうしても気になる方は、こちらをお読み下さい→2014年1月27日のエコノミックレポート「新興国の通貨急落〜通貨危機の前触れ?〜」)

なぜかと言うと、アルゼンチンの窮状は今に始まったことではないからだ。アルゼンチンは2001年にデフォルトを宣言。債務再編に応じていない投資家もいて、アルゼンチンの債務問題はずっと未解決のままである。つまり、10年以上も前から破綻し続けている国が、いまさらどうなろうと、それほど大きな問題ではない、ということだ。

アルゼンチン・ペソ急落と騒ぐが、ペソ買い・ドル売りの為替介入で自国通貨を買い支えてきたのが限界にきたというだけのことである。弱い通貨を強い通貨に固定することができないのは1997年のアジア通貨危機の例を引くまでもなく明らかである。そもそもアルゼンチン・ペソ安は趨勢的に続いてきており、1日の変動幅(グラフ1)が大きかったのでマーケットは「びっくり」したが、アルゼンチン・ペソが安くなること自体は「びっくり」でもなんでもない。つまり、短期的なショックに過ぎない。



それは投機 いつもの話

新興国の動揺は米国の量的緩和縮小が背景にある、と言われている。新興国に投資資金として流れ込んでいた緩和マネーが逆流するというのだが、僕はそれも違うと思う。そんなことは起きないだろう。昨年5月のバーナンキ・ショックの時は、さすがにそうしたことが起きたのだろうと思う。しかし、それから半年以上も時間が経ち、かつFRBはすでにテーパリングに踏み出している。米国のテーパリングで新興国から投資マネーが流出するというなら、とうの昔に流出しているはずである。投資マネーというのは、足の速いおカネなのだ。

では今起きている新興国の通貨安の背景は何か?投機である。投機は常に起こる。ギリシャ・ショックに端を発した欧州債務危機が南欧の国債利回り急騰にまで発展したのも、すべて投機によるものであった。

事実、先週土曜日の日経新聞は、<トルコ・南ア・インド・インドネシア・ブラジルを「フラジャイル・ファイブ(脆弱な5カ国)」と称して、市場は投機の標的にし始めた>と報じている(24日付「新興国通貨、揺れ再び」)。

では新興国通貨が投機の標的とされ、新興国経済が混乱すれば、やはり大きなリスク要因ではないか?という疑問・反論があるだろう。それについても、どうでもいいと思う。

もちろん、いいことではない。そんな混乱が起きず、新興国もまた高成長の軌道に戻って欲しいとは思う。しかし、世の中、いいことづくめなんて望んではいけない。いいこともあれば、悪いこともある。新興国が低迷する。それは悪いことだ。しかし、それは先進国も不況に陥って世界経済全体が停滞するという事態から比べれば、ずっと程度の軽い「悪いこと」であり、そしてもっとも重要な点は、「新興国の低迷」というのはコンセンサスであり、100人のエコノミストがいれば100人ともそう予想しているストーリーである。

今年の世界景気は先進国主導で成長率が高まる。一方、新興国経済は厳しい。それがグローバル・コンセンサスだ。だれも端から新興国に期待などしていない。もしも新興国経済に高い期待を寄せていたとしたら大問題である。新興国の成長が世界経済をドライブするというシナリオだったのであれば、足元の新興国の動揺は大きなリスクになるだろう。しかし、そうではないのだ。初めから期待していないところが、案の定、だめになっても全体のシナリオは大きく狂わない。

シナリオが変わらない以上、買い向かう好機

全体のシナリオ、すなわち「先進国主導の景気回復→日本企業の業績改善」というのが不変で、市場のほうが動揺し株価は下落。であるならば、この下げは買い場である。

日経平均の今期予想EPS(1株当たり利益)はクィック・コンセンサスで約1000円。1万5000円割れはPER15倍割れという水準だ。来期予想EPSは約1100円である。来期予想でPER15倍として16,500円。昨年末につけた高値はその水準を織り込みにいったものであり、早晩その水準が中心レンジとなるだろう。

米国のFOMCを28-29日に控えており、市場はもう一段の波乱となる可能性もあり得るため、一気には買わず、複数回に分けて1万5000円絡みを拾うようにしたい。日経平均1万5000円以下は買い下がる方針で臨もう。ここで拾ったポジションはこの先、報われる可能性が非常に高いと思う。

さらに強気になれる材料がある。それは弱気を言う声が増えてきたことである。年末の昂揚感が裏切られ年初から冴えない相場が続いていることで、弱気筋が増えてきた。なかには「アベノミクス相場は終わった」「日本株はすべて売り」などいう声も聞こえる。そういう弱気筋を振るい落とさないと相場はなかなか上がらない。もっと弱気の声が増えて欲しいところだ。

現在14時50分。日経平均は1万5000円ちょうどで下げ渋っている。そろそろレポートはこの辺で切り上げよう。大引けまでにインデックス・ファンドの買い注文を出さなければならないからだ。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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