まずは経験することが大事

 これらの要因が経験にどの程度影響しているかを、担当者時代、課長時代、部長時代という3つのステージ毎に統計分析したところ、経験に最も強い影響を及ぼしていたのは「過去の経験」であった。

 特に、「連携」と「変革」の経験について、この傾向が強かった。つまり、部長時代に「部門を越えた連携」や「変革への参加」を経験している人は、課長時代や担当者時代にも「部門を越えた連携」や「変革への参加」を経験している傾向が見られた。これは、現在の経験は過去の経験によって既定されていること、つまり「経験が連鎖する」ことを意味している。

 では、なぜ経験は連鎖するのだろうか。考えられるのは「人脈」による連鎖である。例えば、他部門と手を組んで仕事をしたり、変革プロジェクトに参加することで、社内のキーパーソンと幅広い人脈が形成されることが多い。その後、経験を通して知り合った人々から、さまざまな連携・変革の仕事を振られるがゆえに、経験が連鎖していくと考えられる。経済学や経営学では、仕事につながる情報や支援などを供給してくれる人脈をソーシャルキャピタル(社会関係資本)と呼んでいる。

 注目すべき点は、過去に獲得した能力は、その後の経験にあまり影響を与えていなかったという点である。このことは、能力があるからといって、良い経験が積めるとは限らないことを示している。能力の高さよりも、「まず経験してみること」の方が重要になるのだ。

経験の連鎖に入る第1のカギ:学習志向

 経験が連鎖することが示されたが、この連鎖に入れない人は、いつまでも良質な経験に巡り会うことができないのだろうか。データを分析していると、キャリアの途中から経験の連鎖に入っている人も見られた。

経験の好循環の中に入るための第1のカギは「学習志向」である。学習志向とは、「好奇心、挑戦、独自性」を重視しながら仕事をする傾向を指す。つまり、好奇心を持って挑戦することに価値を見いだす人ほど、連携や変革の経験を積む傾向があった。