経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第49回】 2014年2月4日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【寺田文明氏×武田隆氏対談】(中編)
マス広告vs1対1の対話。効率の差はたったの2桁!?

1000万人と“対話”するには

「販売部門のときはスーパーマーケットでの試食販売も体験しました。そこには1人ひとりのお客さまが目の前にいたのに、広告の世界に入った瞬間、テレビCMのリーチが何%、認知度が何%……と、お客さまをマスとして捉えて、我々側から見た数字で判断することが前提になってしまったんです」
森永乳業株式会社の寺田文明広告部長はそう語る。マス広告が過渡期を迎えるいま、マスに近いスケールで企業からのメッセージを「増幅」できるのではと寺田さんが期待を寄せているのが、インターネットだ。

1対1で伝えることとマス広告の間にある差は、意外と小さい?

寺田文明(てらだ・ふみあき)
森永乳業株式会社広告部長。1984年森永乳業入社。東京多摩工場で牛乳他原材料の受入れや仕込み、1985年中央研究所で長期保存可能の豆腐、レトルト食品、電子レンジ食品、業務用食品などの研究開発、1987年製品開発部で飲料の商品企画開発に携わる。1990年慶応ビジネススクールに留学後、1992年米国駐在としてロスアンゼルスでロングライフ豆腐の販売子会社勤務、その後オレゴンに移り現地企業と豆腐製造を行う合弁会社立上げ、初期安定化に取組む。1999年帰国後、総務部秘書室で役員関係業務、営業本部室で営業部門の企画や社内大学などの研修立上げに携わり、2008年5月より広告部に異動。現在は、飲料、ヨーグルト、冷菓、チーズなど、広告コミュニケーション活動全般に携わる。

寺田前回、究極の広告とは、ということを考え、私自身が1億2000万人に5分ずつ商品について話したら何年かかるか、というお話をしました。結果的に4000年かかるので無理だということがわかったんですが(笑)、今度はお客様の行動に与えるパワーを実感した1対1で話すことと、対極にあるテレビCMで広告することにはどのくらいの差があるのか、ということを考えてみたんです。

武田 どういうことでしょうか?

寺田 テレビCMを1000万人が視聴すると仮定すると、1対1で届けられる人数との差は7桁。でも、1回で1000万人の目に触れたとしても、10回接触しないと認知しないとすると、1桁落ちて100万人になる。新商品などのケースを除くと、さらにそこから広告に影響を受けて購買してくれる人は、我々の経験からすると認知した人の10人に1人くらいになるので……。

武田 10万人。5桁にまで減りました。

寺田 そうすると、リーチではなく行動を促せる人数という点では、5桁の差があるということになります。

 今度はコストの観点を入れた効率について考えます。テレビCMを見てもらうための広告費を、リーチする人数で割ってCPM(1000人あたりのコスト)が数百円とすると1人あたり約0.1円、つまりマイナス1桁になります。私が1人に5分お話しするのを約1,000円とすると、4桁の差がある。リーチ視点で4桁の差ということは、行動促進視点では、先ほどのマス広告の数値が認知と購買で1桁ずつ下がることを考えると、結果、2桁の差しかないんです。

武田 「1人ひとりに直接話す」と聞くと非現実的に感じるけれど、計算上はマス広告とわずか2桁の差になるんですね。

寺田 お客さまの購買行動促進を目的においてコスト効率から考えると、そうなります。2桁の差なら「量」を増やしていけば、1人ひとりに向けたメッセージ発信もマスに近いスケール感で実現できるのではないか、と考えました。そのとき、ただ人を雇って数を増やすのではなく、何らかの方法で「増幅」できないかと考え、思い当たったもののひとつがインターネットだったんです。

武田 インターネットは時間と空間を飛び越え、コミュニケーションコストを抑えるものですからね。「日本のインターネットの父」といわれる村井純先生が「エンド・トゥ・エンド」という言葉で、インターネットでコミュニケーション効率がよくなるとエンドとエンドがつながるという説明をされていました。時間と空間のコストが落ちることで、コミュニケーションコストがゼロに近づくというのが、インターネットの本質的な考え方です。なので、寺田さんがコミュニケーションコストについて考えた結果、インターネットに興味をもたれたというのは、すごく宿命的ですね。

寺田 インターネットをマス広告のように捉えて、どれだけのお客様にリーチできるかと考えるか、1人ひとりに伝えるためにどう増幅できるのか、と見るかによって、まったく違いますよね。そう思ったときに、武田さんが『ソーシャルメディア進化論』で書かれていた「ロマンとそろばんを両立させる」というフレーズを思い出しました。私は会社に入って「そろばん」の考え方を身につけ、だんだん「ロマン」に寄っていったんです。武田さんは「ロマン」から入られていますよね?

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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