他人のスープに
つばを吐く厳しさ

安藤 先に申し上げたように、私は26歳で心の調子を崩し、半年ほど会社を休んだことがあります。そのことをメディアなどで公表していることもあり、勤務している大学の学生やソーシャルメディアのフォロワーさんから、個人的に心の問題を打ち明けられることが多いんです。心に悩みを抱えている人が絶えないのは、なぜなのでしょうか?

【安藤美冬×岸見一郎 対談】(前編)<br />一度知ったら引き返せない「嫌われる勇気」の魔力お二人の対談は、東京のcakes会議室から安藤さん、京都のご自宅から岸見さんがアクセスし、Skypeのビデオ通話機能を利用して行われました。

岸見 仕事に就いてみたけど、その仕事に向いていなかったなんてことは誰にでも起こり得ますよね。

安藤 そうですね。

岸見 それで、違う仕事に就くと決心したときに、ただ「自分自身が決めた」とシンプルに考えればいいのに、「心の調子や体調が悪くて続けられない」ことを、仕事を続けられないことの原因にする人がいる。そのほうが周りも納得するし、自分自身も楽なんですよ。でも、そういった行為に対してアドラーは、「人生の嘘」という、非常に厳しい言い方をしています。本当は「仕事ができないから転職して逃げる」などと他人に否定されることが耐えられなかったり、「その仕事に向いていない自分」を受け入れることができないから、嘘の理由を言って、自分自身を納得させたいだけなのです。

安藤 なるほど。

岸見 たとえば、私は自分の子どもに「学校を休むときは明るく元気に休んでいいんだよ」と言っていました。というのも、子どもは学校を休みたいときに、お腹が痛くなったり、頭が痛くなったりするんです。これは仮病でもなんでもなく、本当にそういう症状が出る。でも私は「そんな理由がなくても休むと自分で決心したなら、親である自分が学校に連絡するから」と伝えていました。そうすると、休むために腹痛を起こすことがなくなります。

安藤 言われてみれば、ありそうな話ですね。

岸見 晴れて学校に行かなくていいことが決まった瞬間に腹痛が治まったりするものなんです(笑)。