経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第50回】 2014年2月18日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【寺田文明氏×武田隆氏対談】(後編)
“見れば見るほど飽きてくる”マス広告と、
“居れば居るほどファンになる”消費者コミュニティ

対極だけど両方必要?

「メッセージを読んでいると、目頭が熱くなります」。森永乳業株式会社の寺田文明 広告部長がしみじみとした表情とともに紹介してくれたのは、同社の人気アイスクリーム「MOW」のコミュニティサイトだった。そこには「『MOW』を食べると幸せな気持ちになります」「新しいフレーバーの開発を楽しみにしています」といった、熱心なファンたちの声があふれている。普段お客さまに直接接する機会が少ない企業担当者にとって、これほど励まされる言葉はないだろう。
いまやネット上の「企業コミュニティ」はマス広告に代わる手段として多くの企業の関心を引きつけているが、その運営に苦労している企業もまた多い。今回は、数少ない成功例のひとつである森永乳業の事例から、コミュニティを活性化させるためのヒントを探っていくことにしよう。

目頭が熱くなるようなメッセージを集めるには

寺田文明(てらだ・ふみあき)
森永乳業株式会社広告部長。1984年森永乳業入社。東京多摩工場で牛乳他原材料の受入れや仕込み、1985年中央研究所で長期保存可能の豆腐、レトルト食品、電子レンジ食品、業務用食品などの研究開発、1987年製品開発部で飲料の商品企画開発に携わる。1990年慶応ビジネススクールに留学後、1992年米国駐在としてロスアンゼルスでロングライフ豆腐の販売子会社勤務、その後オレゴンに移り現地企業と豆腐製造を行う合弁会社立上げ、初期安定化に取組む。1999年帰国後、総務部秘書室で役員関係業務、営業本部室で営業部門の企画や社内大学などの研修立上げに携わり、2008年5月より広告部に異動。現在は、飲料、ヨーグルト、冷菓、チーズなど、広告コミュニケーション活動全般に携わる。

武田 森永乳業さんは、アイスクリーム「MOW」の「MOW CLUB」というコミュニティをお持ちで、私たちエイベック研究所はその運営をサポートさせていただいています。オープンされて1年5ヵ月ほどになりますね。

寺田 そうですね。先日はコミュニティの皆さんにMOWの工場見学に行っていただき、MOW作りの体験や、コミュニティで募集した声を工場スタッフに届けるというイベントも実施しました。「いつもおいしい『MOW』ありがとうございます☆『MOW』を食べると幸せな気持ちになります」や「おいしくてやさしいアイスの製造、いつもいつもお疲れ様です。これからも変わらないおいしさ、そして新しいフレーバーの開発を楽しみにしています。がんばってください」といった声を届けました(MOW CLUBのサイトを参照)。工場スタッフは、普段は直接こうしたお客さまの声にふれる機会がほとんどないので、非常に喜んでいました。

武田 これも顧客の見える化(本対談中編参照)のひとつと言えるかもしれませんね。

寺田 そうですね。インターネットがなかったころ、私はよく売り場でお客さまが商品を買われるところを見たりしていました。他社の商品と迷っていたら「買ってください!」と念を送ったりして(笑)。でも結局買われなかったとしても、その迷い方が参考になるんですよね。比べる時にお客さまが商品のどこを見ていたのか、などがわかります。

武田 ああ、パッケージや成分表示など、どのポイントを気にされていたのかがわかるんですね。

寺田 あとは、お客さまのお宅を訪問させていただき、冷蔵庫の中を見せていただく調査もしていました。でも、実際にお客さまがご家庭で商品を食べている姿というのは、なかなか見られませんでした。その点、コミュニティで写真を募集すると、ご家族でアイスを楽しまれている写真がどんどん上がってくる。それを見たら1枚で伝わってくるものがありますよね。

武田 新しいフレーバーが出たときに「やっと見つけた!」と、買い物カートに入れている写真を投稿してくださった方もいらっしゃいましたよね。

寺田 ああいったメッセージを読んでいると、目頭が熱くなります。

武田 私はMOWをお客さまにお届けするのではなく、コミュニティを通して間接的に関わらせていただいている立場ですが、皆さんのMOWに対する熱いメッセージを読むとすごくあたたかい気持ちになります。

 森永乳業さんに限らず、メーカーには、日々多くのクレームが消費者から届きます。クレームというのもひとつの大事な情報ですが、それが企業に届く唯一の定性情報になってしまうと、経営の意思決定がブレてしまう(本連載第33回松岡正剛氏との対談参照)。クレームに拮抗するくらい、その製品が好きで応援したいというファンの声も存在しています。意思決定は、ポジティブとネガティブ、そのふたつの声を並べて行う必要があります。

寺田 私たちはお客さまの声をクレームとは言わず「ご指摘」と呼んで、非常にありがたい情報だと考えています。本気で怒っている方というのはじつは少なくて、応援してくださっている方がほとんどなんですよね。でも、たしかに「お客さま相談室」に声を届けてくださる方というのは、氷山の一角だと感じています。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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