人を食って生きる――。これが、この会社の専務取締役の評判である。管理職の中には、「肉食専務」と陰口を言う者もいる。冷めたまなざしでこの専務を見つめる元部下たちも、多数いる。

 今回は、主に10歳までくらいの子どもを対象にした玩具を製造し、販売する中堅玩具メーカーのA社(正社員数約300人)で、「社長候補ナンバー1」と目される専務の元部下を取材した。その男性は、斎藤直樹氏(仮名・36歳)。筆者とは3年前に知り合った。会社員の生き方をテーマにした筆者のコラムを読んで、感想をくれたことがきっかけである。

 現在はこの玩具メーカーとは別の小さな会社で働いているが、数年前まで「肉食専務」の部下として悶え苦しんでいた。その頃、彼はどんな気持ちで日々を過ごしていたのか。彼を苦しめた職場の課題とは何だったのか。

 読者諸氏も、一緒に考えてみてほしい。


30代前半の自分がなぜ工場へ
追い払われなくてはいけないのか?

 2012年8月下旬、A社本社3階の会議室。ここでの話し合いで、斎藤は当時の上司であった企画部の部長(後の「肉食専務」)との縁を切ろうと思った。

 部長である40代半ばの望月(現在の専務)が、よく通る声で話す。

「人事(部)も君のことを思い、引き取る部署を探してくれたのだから……。ありがたいと思えよ」

 他部署への異動についての説明だった。斎藤はここ数年の部長との衝突を思い起こした。仕事の進め方などをめぐり、十数回は職場で言い争いをした。だが、まさか異動になるとは覚悟していなかった。部員10人ほどのうち、斎藤たった1人が異動となる。