経太 まず売上げですが、びっくりしたことに日産並みに直すと、トヨタの売上げは2兆5,633億円にしかなりません。日産より4,377億円も少ないのです。そして営業利益は1,703億円あって、日産の赤字157億円との差は、1,860億円にもなります。

有価 私もびっくりしました。日産よりトヨタの売上げが少ないのは、車1台あたりの売値が日産の224.2万円に対して、トヨタは191.7万円と日産より33万円(14.7%)も低いのです。日産よりトヨタの車のほうが安いなんて、印象と少し違います。

先生 実は私もはじめて計算した時は、ちょっとびっくりしたよ。
トヨタは昔から、若い人にはカローラのような小型車をすすめる。そして家族が増え、世帯の収入が上がるにつれて、コロナ、マーク2 とグレードアップして、最後は上級車のクラウンを買うように仕向ける、という明確な営業戦略があると思っていたからね。
事実、1991年バブル最後の頃に私がはじめて日産とトヨタの比較分析をやった時は、トヨタの方が日産より1台あたり売価が10万円以上高くて、「これだからトヨタは楽なんだな」と思ったことがある。それが、いつの間にか日産より平均単価が安くなっているらしい。どうしてかわかるかな。

有価 そう言われてみると、最近は「いつかはクラウンに」なんて言わなくなりました。

先生 そうなんだ。思うにね、バブルが崩壊してユーザーが高級車ばかりを求めなくなった、サイフの紐をきつく締めるようになったと思ったとたんに、トヨタは開発方針を転換したのではないかな。上級車のイメージは保ちつつも、実際に売る車としては大衆車に力を入れた。ユーザーニーズの変化にあわせて、提供する商品や開発方針を柔軟に変える。
これはマーケティングの基本ということができる。

経太 マーケティングの方針を変えて、大きく舵を切ってボリュームゾーンを狙ってきたということですね。それで販売台数で大きく日産を引き離したわけですか。