昨年の改正建築基準法の施行に伴う混乱も冷めやらぬうち、またもや建設業界に重大な影響を及ぼしそうな法改正が目前に迫っている。11月末に施行、半年の猶予措置を経て来年5月から完全実施される改正建築士法だ。

 これまで建築確認申請書には、責任者の1級建築士1人が判を押せばよかった。だが法改正により来年5月以降、一定規模以上の建物の設計は、新設される構造1級建築士、設備1級建築士が設計か、あるいは法適合確認を行ない、それぞれについて責任を負うことが義務づけられる。これらの新資格を取得するには1級建築士として5年以上構造設計ないし設備設計に従事し、講習を受け試験に合格しなければならない。

 業界には不安が広がっている。たとえば、現在登録されている1級建築士のなかで、構造設計に携わる者は推計で約1万人いるといわれている。だが、無資格で業務を行なう建築事務所も多く、「今回の建築士法改正で大量の事務所が存亡の危機に晒される可能性もある」と業界関係者は言う。特に設備では「電気、機械、情報などの専門家である設備設計士のなかに1級建築士資格を持つ人は非常に少ない。高齢のため受験を諦め、廃業を余儀なくされる事務所も出るだろう」と、尾島勲・日本設備設計事務所協会会長は危惧する。

 さらに「大学での専門教育期間と実務経験期間を合わせると取得に最短で9年もかかる、日本でも最も難しい資格。それにふさわしい業務報酬がなければ取得を目指す人もいなくなる」と木原碩美・日本建築構造技術者協会会長は言う。

 資格のない設計士は、有資格者に法適合確認を依頼すれば、制限に引っかかる大規模案件も手がけられるが、「資格の有無で設計者を選ぶ施主も増えるだろう。無資格者は下請けの仕事しかできなくなる可能性もある」(尾島会長)。

 初回の試験はこの秋に行なわれる。どれほどの人数の構造・設備1級建築士が誕生するのか。それ次第では設計士が足りなくなる恐れも。業務が有資格の一部の事務所に集中すれば、昨年の官製不況の再来にもなりかねない。業界は固唾をのんで状況を見守っている。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 鈴木洋子)