結局は相対評価になる目標管理制度

 このような問題に対して、人事部は何を考えたか。じつは絶対評価の目標管理制度について「相対評価で運用する」ということだ。論理的な無謬性にこだわる人事部として、表立っては相対評価と口にできない。そのため評価者からこそっと部下の順位表をもらったり、人事ヒヤリングと称して口頭で聞いたりしているのだ。会社によっては部署の業績に応じたボーナスファンドを部長に委ね、その裁量で部下に配るという方法を取るところもある。これも評価の相対化のバリエーションといえる。

 いずれにせよ、表向きは全員Sでもじつは順番がついていて、ボーナスの金額にも差がある。そもそもある人がどのくらい優秀かを判断するのは極めてむずかしいが、AさんとBさんのどちらが優秀かを決めるのは容易だ。相対評価はじつは現実的で優れた方法なのだ。

 目標管理制度の建前と本音の話をしてきたが、社風との関係に戻ると、やはりここでも社風が評価を決めるという結論になる。もともと定性的な色彩の強いコンピタンシー評価が、評価者の主観に左右されやすいことは第1回ですでに述べた。一方、客観性を重視する業績評価についても、極力、具体的で数字に表せる目標を設定することで、主観性の排除を企図してはいるが、総合評価に至るプロセスで評価の焦点が個々の業務実績から「人」に徐々に移ってしまい、結局、上司は人物としての部下評価、すなわち「人物評価」にここでも陥ってしまう。

 こうなると、主観的な好き・嫌い評価→それを支配する社風→DNAの継承というサイクルが繰り返される。ここでも社風は強い力を持つのだ。


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【第3回】<br />目標管理制度の評価も、結局は三つに収斂する

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