会社に本当に求められる人とは

 会社も上司も求めるのは、カッコよく言えば、「企業を中長期的に成長させられる高いポテンシャルを持った人」である。わかりやすく言えば「ずっといっしょの職場でやっていくうえで気心が知れて仕事のできる人」なのだ。どこの会社にも「数字はめちゃくちゃ上げるけど、人間的にはどうかな?」と言われる人がいる。そして、このような人は、長い時間軸のなかでは本質的には評価されることはなく、結局どこかでそれていく運命にある。

 上司は自分と同じタイプの部下を高く評価するものだ。経営も人事も「数字、数字」と言ってはいるが、本音は違うということをみんな知っている。誰も成果主義を本気で徹底しようとは思っていないのだ。結局、上司はいっしょに仕事をして違和感のない「自分に似た人」「いかにも当社の人」を、無意識のうちに評価してしまう、そしてそれは取りも直さず「社風」に合った、「社風」がみずから選んだ人なのだ。

 私の学生時代の友人に、製薬大手で企画担当常務をしているD君がいる。彼はもともと総合商社の出身だが、40代前半にいまの会社に転職した。別にリストラにあったわけではないが、どうも商社のカルチャーには合わなかったようだ。なぜか。彼は「普通の人」であり過ぎたからだ。

 程度の差こそあれ、商社で偉くなるには「クセ」が必要だ。優秀で元気な人の集まりなので、頭一つ抜き出る鍵は、個性。確かにこの草食系男子の時代に世界の果てで商売を取ってくるには、それなりのエッジが効いていないとダメだろう。

 一方、D君が転職した製薬会社は、昨今珍しい時間の軸の長い会社だ。同社がというよりは業種として「長い」ということなのだろう。製薬会社は基本的に新薬の開発がすべて。収益性の高い新薬を開発しても、一定の期間が過ぎるといわゆる「ジェネリック」の発売が認められ、先行者メリットはいずれなくなるからだ。たとえば、高炉のように製品のつくり方は(千年単位の昔から)誰もが知っていながら、多額の設備投資や経験則が生きる操業ノウハウなど、さまざまな参入障壁がある産業とは異なる。製薬会社は、既存の商品についてはつくろうと思えば誰もが真似できる性格のものだから、生き残る術は新薬の開発にあるわけだ。

 新薬の開発はすこぶる長い時間を要する。とりわけ、許認可にも手間がかかるわが国では、それこそ実際の商品化まで数十年の月日を要することもある。こうなると目端が利くとか感性が豊かという人材像の世界とは、様相が異なる。

 D君は中途入社ながら、10年ほどの間に現在のステータスまで昇った。次期社長という世評もあるくらいだ。決して「オレが、オレが」という自己主張の強いタイプではない。むしろ寡黙で人の話をじっくり聞くほうだ。商社での海外勤務経験もあるので語学力に長けてはいる。しかしながらポイントとなるキャラクターは「誠実さ」にあるようだ。私の仕事である人材スカウトの対象者がたまたまD君の社内の人で、いわゆる「レファレンス」(身元参照)をお願いすると、責任の持てる範囲で真摯に教えてくれる。周囲に気を配りながら、目の前の人に対して誠実なのだ。

 そして、芯が強い。「心の内に秘めた自分の理想に向かって安易な妥協をすることなく向かって行く人」という印象を、会った誰しもに抱かせる。彼が視界の先に見ているものは、身近ではなくかなり遠くにあるのだろうが、製薬業界はそれを許す長い時間の軸を持った業界であり、そして会社だということなのだ。


◆ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ◆

【第4回】<br />上司は自分と同じタイプの部下を評価する

『日本の人事は社風で決まる』 好評発売中!

日本の会社員なら誰でも口にしたことがあるものの、明確な定義がない「社風」という言葉。実は組織の人事制度を貫くDNAや暗黙知とも言える重要なものだ。本書ではその正体から対処法までを解説する。組織で働く人なら誰でも「あるある!」とうなずく人事にまつわるエピソードも満載で、軽いエッセイとしても楽しめる。

ご購入はこちら! [Amazon.co.jp] [紀伊國屋書店BookWeb] [楽天ブックス]