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アマデウスたち

小川三夫
手の記憶で受け継いだ千年の技

週刊ダイヤモンド編集部
【第75回】 2009年4月24日
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小川三夫
写真 加藤昌人

 1300年の時を経て、いまなお飛鳥建築の荘厳さのままをまとう法隆寺の大伽藍。なにげなく訪れた一人の高校生に、「おれの仕事はこれしかない」と即座に決意せしめたのは、彼の目に映った見事な木組みの構造美であったのか。あるいは、滅びゆく飛鳥の技を現代にとどめ置こうとする古の工人たちの執念が彼に乗り移ったのか。

 “最後の宮大工”と呼ばれた法隆寺番匠、故・西岡常一の唯一の内弟子である。61歳まで一人の弟子も取らなかった“法隆寺の鬼”が、小川にだけ弟子入りを許した。千年の技の伝承が途絶えなかった好運を思わずにはいられない。

 法隆寺の用材は一つとして同じものがない。のこぎりさえなかった時代、くさびを打ち込んで大木を割り、削り、刻む。曲がった木もあれば、ねじれた木もある。

 その癖を読み、重心を見抜き、組み上げていく。現代の構造計算では建っているはずがない堂塔群は、「手の記憶」で受け継がれてきた技と鋭敏な感覚のうえに成り立っている。

 西岡は一度だけかんなをかけてみせ、「こういうかんなくずを出せ」と言った。教わったのはそれだけである。そのかんなくずを宝物のように部屋に飾り、黙々と修業した。西岡の一挙手一投足から技を盗み、なにより「小刀一本で建てる気迫」を学んだ。

 小川も弟子にはなにも教えない。失敗すらとがめない。「手の記憶は、自分自身で刻むもの」。職人の信念は巨木のごとく、揺るぎない。

(ジャーナリスト 田原 寛)

小川三夫(Mitsuo Ogawa)●宮大工棟梁 1947年生まれ。18法隆寺宮大工棟梁・西岡常一の門をたたく。仏具師としての下積み修業などを経て、3年後、21歳で入門を許される。77年寺社建築専門の「鵤工舎」を設立。2003年、厚生労働大臣表彰「現代の名工」。著書に『木のいのち木のこころ』(共著)など。

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