最近、農政改革の一案として「減反選択制」が有力視されている。これは、コメの生産調整(減反)に参加するかどうかは個々の農家の判断に任せ、参加する農家のみに米価の低下分を補助金で補填するというものだ。

 率直に言って、筆者はこの考え方に否定的だ。

 むろん選択制にすれば、減反が一部分だけ緩和する(減反に参加しない人が出てくる)ので、米価は一時的にある程度下がり、消費者の負担はその分軽減されるかもしれない。だが、どれだけの農家が減反から離脱するかによって米価低下幅は変動するため、事前に補助金の必要額を予測できないほか、減反への1割参加農家にも10割参加農家と同じく補償するのかという制度設計上の難しさもある。

 またなにより大きな問題は、減反参加農家の大半が、コメの生産拡大意欲を持たない人たち、すなわち兼業農家になる可能性が高いことだ。財政からの補填で零細な兼業農家に現在の米価の水準を保証してしまえば、彼らは農業を続けてしまう。これでは、主業農家に農地は集まらず構造改革効果は望めない。

 高米価と減反政策は零細な兼業農家を温存してきた。その農政の繰り返しである。これは農家戸数を維持して政治力を発揮したい農協を利するかもしれないが、健全な農業を作ることにはならない。これまで主業農家は規模を拡大してコストを下げ人並みの所得を得ようとしても、農政がそれを阻んできたのである。

 そもそも筆者の案は、減反を思い切って廃止することで、日本農業の競争力を抜本的に高め、輸出もできるようにしようというものだ。ここで改めて、そのメカニズムを詳しく説明したい。

 現在東京都の面積の1.8倍の39万ヘクタールが耕作放棄されている。かつて米価が60キログラムあたり2万円を超えていた食管制度の時代には耕作放棄は話題にも上らなかった。なぜ耕作放棄が増加しているのか。それは農業収益が減少したからである。

 2000年以降米価が25%低下したため、高いコストで生産している零細な兼業農家は農地を手放している。しかし、農地の受け手となるはずの主業農家も米価低下で地代負担能力が低下したため、農地を引き取れない。間に落ちた農地が耕作放棄されているのだ。これが耕作放棄の正しい理解である。