レバノン出身の
金融トレーダー

 タレブは不確実性科学を探求する科学者ですが、トレーダー兼クォンツでもあります。クォンツとは数理モデルを駆使する金融商品の設計者のことです。不確実性科学の成果を金融商品に応用する職業ですが、タレブは設計者ではなく、「モデルの欠陥や限界を研究し、モデルが破綻するプラトン性の境目を探っていた」と書いています。

 タレブ自身はギリシャ・シリア系の両親のもと、レバノンに生まれ、東地中海地方の豊かな文化の中で成長します。東地中海沿岸地域をレヴァントといいます。タレブは自分をレヴァント人だと意識しているようです。1960年生まれのタレブは75年、レバノン内戦を機に15歳で故国を出ることになるのです。

 洗練された幅広い西欧の教養と、「プラトン性」の境界を探索する複雑な思考は、彼のこのような経験が背景にあるのでしょう。

 タレブの邦訳書は『ブラック・スワン』前後に以下のものが出版されています。いずれも嗜虐に満ちた刺激的な書物です。

『まぐれ――投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか』(望月衛訳、ダイヤモンド社、2008年)
『強さと脆さ――ブラック・スワンにどう備えるか』(望月衛訳、ダイヤモンド社、2010年)
『ブラック・スワンの箴言――合理的思考の罠を嗤う392の言葉』(望月衛、ダイヤモンド社、2011年)

『ブラック・スワン』以前に不確実性科学について金融を舞台に描いた長編エッセイが1 、2. は『ブラック・スワン』の補遺と解説を兼ねたエッセイ集、3. はタレブが教養とレトリックを駆使した箴言集です。『ブラック・スワン』と合わせて味わってください。


◇今回の書籍 46/100冊目
『ブラック・スワン 不確実性とリスクの本質[上]』

経済学やファイナンス理論の<br />根本を揺さぶる衝撃の問題作

2008年の世界金融恐慌を原理的に予言した書として、全米でミリオンセラーを記録。人間のものごとの認知にともなう根本的な問題を明らかにし、読む者を深く考えさせずにはおかない。上巻では、私たち人間が歴史上の事件や今の出来事をどう見るか、その見方にはどんな歪みが現れるのかを明らかにする。

ナシーム・ニコラス・タレブ:著
望月衛:訳

定価(税込)1,890円

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◇今回の書籍 47/100冊目
『ブラック・スワン 不確実性とリスクの本質[下]』

経済学やファイナンス理論の<br />根本を揺さぶる衝撃の問題作

人間のものごとの認知と思考にともなう根本的な問題を明らかにした全米ミリオンセラーの話題作。下巻では主に、予測にともなう間違いと一部の「科学」のよく知られていない限界、また、極端な現象をさらに深く追究し、ベル型カーブの問題、そこから現代経済学、ファイナンス理論の根本を揺さぶる問題を明らかにする。

ナシーム・ニコラス・タレブ:著
望月衛:訳


定価(税込)1,890円

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