前回連載でミャンマーの銀行業界における業務の現況をご紹介した。そこには、矢継ぎ早に金融事業に係る制度の改正がなされている中で、現地の銀行内部では、実務が追い付いていない現状があった。このように、現地の金融機関が実務対応に苦慮する一方で、日本をはじめとした海外の金融機関は、本格的な支店開設までには至っていない。

 その一方で、今後の外国銀行にも支店開設が許可されるだろうとの思惑から、各国の有力銀行が将来の進出に向けての準備を始めている。その中で、三井住友銀行は、2012年に現地最大手民間銀行のカンボーザ銀行といち早く提携関係を構築し、現地での金融事業の刷新のサポートを行っている。世界の多くの金融機関が現地資本との提携に血道を上げる中で、なぜ三井住友銀行がそのポールポジションを確保したのか。また現地との提携において、先方が期待している点は何か。

 今回は、三井住友銀行の国際統括部業務推進グループ長の油井宏一郎氏、同グループ所属の富田太郎氏に、同行のミャンマーでの事業展開の状況について話を聞いた。

2012年5月に現地民間最大手の
カンボーザ銀行と提携関係を構築

 三井住友銀行は、2012年5月22日に、ミャンマーの大手金融機関であるカンボーザ銀行(Kanbawza Bank)と技術支援に関する覚書を締結した。これは、ミャンマーが民主化に舵を切り始めた2011年以降で、初の日系銀行とミャンマーとの民間銀行との事業提携契約だった。当時はまだミャンマーの民主化や経済改革の方向について、多くの人が懐疑的に見ていた時期だ。そんな中でいち早く現地の金融機関との提携の先鞭をつけたその着眼点や、その意図について、油井氏はこう語る。

「日系企業の今後の進出ニーズが大幅に高まることが予想されている中で、現状は外国の銀行は支店や銀行現法等を出すことはできません。日系企業からの要求は高く、しっかりとした枠組みでサービスを提供する必要がありました。その当時にできる選択肢をいろいろ模索する中で、現地銀行との提携を通じてのサービスの提供が、具体的な案として進んでいきました」

 今回の提携先であるカンボーザ銀行は、ミャンマーにおける最大手の銀行だ。この提携を発表した時点で約50店舗、今年の2月18日現在では144店舗の支店を有し、ミャンマー各地に積極的な拡大を行っている。三井住友銀行は、今回の提携に際して、可能性として存在する複数の候補を慎重に比較検討したうえで、以下の3点の理由から、カンボーザ銀行を提携先として選択した。

 最初の理由としては、米国の制裁対象にかかっていないこと。米国は、ミャンマーが軍政の時代から、民主化支援の観点から軍事政権に近いミャンマー企業を制裁対象としてきた。ミャンマーは2011年に表面的には民主化に舵をきったものの、ミャンマー企業の多くは、依然として米国の制裁対象リストに掲載されている。