社会保険料の削減が
もたらす落とし穴

――社会保険料の削減ができるかどうかも、どの制度を選択するかの判断基準になりますね。ただ選択制確定拠出年金には、社会保険料が削減できるメリットがありますが、それは同時に、社会保険の等級が下がることとなり、将来、受け取る公的年金の受給額が減ってしまうのではないでしょうか。

山中 選択制確定拠出年金の場合は、社員(加入者)が自己拠出し、その金額により社会保険の等級が下がり、結果として、加入者が将来受け取る公的年金の受給額が減ることがあります。

 例えば、3万円の自己拠出を30年継続した場合、65歳からの老齢厚生年金の受給額が年間5万9000円程度減少します。しかし30年間の、社会保険料削減メリットと所得税・住民税の節税メリットが200万円以上となりますし、60歳時点で使える「自分年金」を、元本だけでも1080万円つくることができるので、一概に損とは言い切れないはずです(株式会社アセット・アドバンテージの試算による)。

――生涯に受け取る総金額を考慮すると、公的年金の受給額が減ることが、必ずしもデメリットにならず、それよりも節税に注目すべきという考え方ですね。企業の役員のように比較的給与額が多い場合、確定拠出年金を利用するメリットはあるのでしょうか。

山中 健康保険、および介護保険の等級は、報酬月額117万5000円以上を47等級とし、それ以上は存在しません。同じく、厚生年金保険は、報酬月額60万5000円以上を30等級とし、それ以上は存在しません。これは、収入が一定額以上になると、保険料負担額が増えないと同時に、公的年金受給額も増えないということであり、むしろ給与額が高い方ほど、生活水準を維持するためにより多くの「自分年金」が必要ということを意味します。実はこのような方たちこそ、確定拠出年金を利用する価値があるのです。

 例えば、月額給与125万円の方は、毎月5万1000円を拠出しても等級に変化がないので、社会保険料も減額されません。等級が変わらないことによって給付は変化せず、また傷病手当金や老齢厚生年金を自己拠出によって減額されることもありません。

 給与額が高い役員が加入する場合、等級変更が伴わなければ、社会保険料の削減にはならず、個人の節税のみに効果が限定されます。しかしながら、今後高額所得者の所得税率の引き上げなどが検討されている中、確定拠出年金加入による節税効果はますます高まるわけですから利用しない手はないでしょう。また、自己拠出で給与額が変更されるため、役員によっては、決算で届け出をする必要があります。役員は年度の途中でいつでも加入できるわけではなく開始時期には注意が必要です。