電力システムの大きな変化が始まった

 この連載では当面、産業などミクロの分野に落とし込んで、日本の成長戦略についての考察を行っている。個別の産業で現実にどのようなことが起きているのか、そして何が起きることが期待されるのかを分析することで、日本のあるべき成長戦略の姿がよりよく見えてくると思われるからだ。

前回までは医療について何回か取り上げてきた。産業としての医療をどう改革していくのかという課題は、日本経済の将来にとってきわめて重要である。医療分野は雇用や地域での付加価値という意味で日本最大の産業であり、医療や介護でよりレベルの高い効率性を実現しない限り、日本の財政構造改革を実現することが難しいからだ。

 医療については、後の回でまたチャンスがあればさらに詳しく考察を進めていきたいと思う。今回からは、もう一つの重要な産業を取り上げ、成長戦略という視点で分析したいと考えている。それは電力産業であり、加えてガスや石油などのエネルギー政策である。

 電力産業が日本の成長戦略にとって重要であることの意味は、医療や介護が重要であることの意味とは少し違う。医療や介護は、その改革に時間がかかる。だからこそ早く改革の先鞭をつけなくてはいけない。とはいえ、それでも日本の高齢者人口がピークにくるのはかなり先のことだ。そうした将来を見据えながら、拙速ではなく、本質的な改革を進めることが重要だ。

 一方、電力システムの改革はこれから数年が勝負だと言っても過言ではない。福島の原発事故が日本のエネルギー戦略に大きな転換を迫っている。現時点では日本のすべての原子力発電所が止まっており、電力料金の引き上げは多くの産業を苦しめている。また、海外から大量の天然ガスなどの購入を迫られ、日本の貿易収支も大きな赤字を続けている。

 原子力発電所をどうするべきかという問題については、国民のあいだにもいろいろな意見がある。そう簡単に意見の一致がみられるとも思われない。ただ、原発をどの程度利用するかしないかにかかわらず、電力システム改革を急ぐ必要がある。

 政府も電力システム改革の重要性を認識し、大胆な電力システム改革を打ち出している。そのための重要な法案が前国会、今国会、そして次の国会に出され、電力システムの改革のプロセスが進んでいる。

 一方、原発事故を起こした東京電力にはそうした政府の改革を待っている余裕はない。同社は自ら改革を進めようとしている。日本最大の電力市場である首都圏に電力を供給する東京電力が変化するということは、多くの企業を巻き込むことになる。