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2030年のビジネスモデル

「ポジティブ福祉」が始まる

齊藤義明 [ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]
【第17回】 2014年3月13日
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 人材不足の問題を行政にだけ求めても無理だ。新しいアプローチが必要とされている。福祉の世界を特別扱いせず、正しい人じゃなくても、良い人じゃなくても、誰もがアクセス可能で、認知症、自閉症、知的障がいなど様々な人たちが持つ独自の視点や世界観や能力を知り、互いに楽しみ合うような新しい経験の創造。岡さんは、福祉への入り口をもっと楽しい入口にしたいと思っている。カッコいい生きかたを追いかけられる職業にしたいと思っている。究極的には福祉と言う固定観念を変えようとしている。

 クラブやライブハウスではモッシュピットという小さな丸い集団ができる。互いに体をぶつけ合うその姿は、パッと見、恐怖を感じる。だがこれは喧嘩ではなくダンスで、パンクの共通ルールだ。そこでモミクシャになって倒れる人がいると、知らない人が自然と手を貸して倒れた人を起こしてあげる。この助け合いは本能的なものだ。

 「これって福祉じゃないのか」と岡さんはつぶやく。

 「優しさとか思いやりとか、自分で言っちゃうのはむしろ気持ち悪い。福祉とは、言うんじゃなくて、あること」

 特に良い人ぶらずに、普通の人が自然に人を助けちゃうナチュラルな福祉。非常識で悪そうだけど、さらりと人助けしてしまう生身の人間像の中に、岡さんは福祉の拡大可能性を捉えている。

 クラブは騒がしいし、行きにくいという人たちもいるだろう。介護士になろうとする人はクラブにいったことのない人だって多い。岡さんは、そういう人向けに、静かな場所で話し合うトークイベントも月1回程度開催している。

 そこではまず、ゲストと岡さんの対談から始め、対談の中から課題を一つだけ抽出して参加者の方へ投げかける。参加者は、話し相手を変えながら、会場をあちこちに動き回るグループワークを4回転ぐらい行い、しだいに課題に対する解決方向を導いていく。グループワークの後は、参加者が自由に交流するフリータイムにしており、これが非常に盛り上がるという。

 つまり、ここは福祉に関する学びの場であると同時に、人と人との出会いの場、横につながる場にもなっているのだ。福祉の世界には、合コンに行くのは恥ずかしいけど、出会いを求めている人たちがいる。これは福祉版合コン(ウェルコン)といってもいい。そんなの「動機が不健全だ」と言う人もいるかもしれない。しかし、それが普通の若者のリアルな姿ではないのか。福祉の世界にだけ許されないという理由はない。本音や欲望も含めて人間というものを理解し受容できなければ、介護や福祉の世界に関わる人たちを増やしていくことはできないのではないだろうか。

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齊藤義明
[ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]

ビジネスモデル研究者、経営コンサルティング会社勤務。政策・経営コンサルティングの現場でこれまで100本以上のプロジェクトに関わる。専門は、ビジョン、イノベーション、モチベーション、人材開発など。

2030年のビジネスモデル

未来のパターンを作り出す企業は、はじめは取るに足らないちっぽけな存在だ。それゆえに、産業の複雑な変化の過程で、その企業はときに死んでしまうかもしれない。しかし個別企業は死んでも、実はパターンは生き続け、10年後、20年後、新しい現象として世の中に広がる。2030年の日本につながる価値創造のパターンとは何か。現在さまざまな領域でその萌芽に取り組む最前線の挑戦者たちとのダイアローグ(対話)。

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