中山 前回の話の中で、岡田益男先生の話が「元素間融合」のヒントになっていたという話もありました。実際の経緯はどういうことだったのですか。

「元素間融合」はどのように生まれたか中山智弘(なかやま・ともひろ)
1997年千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(工学)。民間企業の研究員から2002年に科学技術振興事業団へ。独立行政法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)フェロー、内閣府政策統括官(科学技術政策・イノベーション担当)付、内閣官房国家戦略室政策参与を経て、現在、JST科学技術イノベーション企画推進室参事役、JST・CRDSフェロー/エキスパート、文部科学省元素戦略プロジェクト・プログラムオフィサー。各種の政府委員等も務める。

北川 岡田先生がおっしゃったこととイコールではないけれど、「水素を材料の中に出し入れすることによって、通常は混じらない金属元素同士が混じることがある」という言葉は頭のどこかにあったと思います。
 これも具体的に説明しますと、白金(プラチナ、原子番号78)とパラジウム(46)という2つの元素は混ざりません。これは金属学における常識です。

中山 混ざらないというのは、一見すると混ざったように見えて、実は混ざっていないということですか。

北川 そうですね、こんな例ならピンときますか? いま、体育館に男性100人、女性100人がいるとしますね。ここで男性と女性がお互い惹かれて入り乱れた様子を「ランダムに混ざった状態」と考えると、白金とパラジウムの場合は、男性は男性だけ、女性は女性だけで固まっている状態です。一見、混ざっているように見えても、男性だけ・女性だけでそれぞれ一塊になっていて、男女は決して手を繋ぎ合っていません。少なくとも、男性と女性とがランダムに並ぶ状態にはならないんですよね。これを「相分離」と呼んでいます。

中山 鉄と銅も同じ関係ですか?

北川 同じです。混ざりません。

中山 鉄と銅も混ざっているように見えて、その中から銅だけを回収するのは難しいと言われていますが、本当はきちんと混ざっていたわけではないんですね。

北川 そうですね、先ほどの白金とパラジウムの例でいうと、実は「白金・パラジウム合金触媒」というのが売られているんですよ。合金だというのだから「本当に混ざっているのかな?」と思って電子顕微鏡で見てみると、けっこう大きな塊で白金、パラジウムが2相に分かれているんです。

中山 「合金」という言葉は、人によって使い方が違うということでしょうか。

北川 合金の定義によりますね。合金には大きく分けると、2種類あるんですよ。先ほど説明した「相分離型」と、もう1つ「固溶型」があるのです。白金とパラジウムのケースでは、電子顕微鏡で見ると比較的大きな塊の状態でバラバラと2つの相に分かれているのが相分離です。もう1つ、原子レベルで見てもランダムに混ざりあっている場合が固溶型の合金です。相分離型には、内側がパラジウムで外側が白金になっているコアシェルというタイプもあります。大きく分けると「ランダムに混ざっている=固溶体」「一見混ざっているように見えるが、本当は相に分かれている=相分離」の2種類の合金があると思ってください。

「元素間融合」はどのように生まれたか

中山 固溶体はイメージしにくいかもしれませんね。

北川 それなら「液溶体の固体版だ」と思えばいいですね。液溶体というのは2つの液体が原子レベル・分子レベルでランダムに混ざり合っている状態のことで、水とアルコールは分子レベルで混ざり合いますから「液溶体」です。