経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第52回】 2014年3月18日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【松田修一氏×武田隆氏対談】(中編)
アントレプレナーに必要な資質とは

あなたは「起業家」? それとも「企業家」?

「会社が大きくなればなるほど、自分の役割が他者に譲渡されていくので、会社の中での自分の存在感が小さくなっていくような感覚になる」。1996年に学生ベンチャーとして起業した武田隆氏は、この「会社が大きくなって嬉しいはずなのに、自分の存在は小さくなって悲しい」という心理障壁を乗り越えた起業家のひとりだ。
「起業家」から「企業家」へと脱皮できる人と、そこでつまずいてしまう人。起業を経験した人ならば誰もが経験するこの境界線を、アントレプレナーはどうすれば越えていくことができるのだろうか?

「起業家」と「企業家」には明確な違いがある

武田前回の最後に「アントレプレナー」という言葉が出てきました。「アントレプレナー」は「起業家」と同義語だと考えて良いのでしょうか。

松田修一(まつだ・しゅういち)早稲田大学名誉教授・商学博士。昭和18年10月1日生まれ。1966年9月公認会計士試験2次試験合格、1972年3月早稲田大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。1973年12月監査法人サンワ事務所(現監査法人トーマツ)入社、社員として中堅・ベンチャー企業のコンサルティングに従事。1985年3月「独立第三者による経営監査の研究」にて商学博士(早稲田大学)、1986年4月早稲田大学アジア太平洋研究センター助教授、1991年4月同センター教授に就任。1998年4月早稲田大学大学院(MBA)教授に就任。2007年4月早稲田大学大学院商学研究科(ビジネス専攻)教授に就任。2012年3月早期退職、名誉教授。現在、早大アントレプレヌール研究会代表理事、ウエルインベストメント株式会社取締役会長を含む6社の社外役員、日本ニュービジネス協議会連合会副会長。元日本ベンチャー学会会長。経済産業省・財務省・文部科学省・総務省などの審議会・委員会委員などを歴任。『ビジネスゼミナール会社の読み方』(日本経済新聞出版社)『ベンチャー企業』(日経文庫)『日本のイノベーション123』(白桃書房)等著書・論文多数。

松田 私の解釈では、アントレプレナーは「起業家」と「企業家」のどちらも意味します。

武田 起業家と企業家は、どう違うのでしょう?

松田 研究者や学会では、企業家と起業家が使われ、実務界では起業家という言葉がよく使われています。起業家は自らリスクをとる覚悟で一歩踏み出し事業を起こす人、企業家は事業構想を考え企てる人というように、使い分けています。ベンチャー企業の経営者を起業家と呼ぶのは、一歩踏み出す最初の人であるからです。アントレプレナーは「起業家」としてスタートし、企てる「企業家」に成長していかなければいけません。

 私は公認会計士として、中小企業のイノベーションを支援する仕事をしていました。そのなかで、企てる人と起こす人が分かれてしまっている状況を見てきました。プランは経営企画がつくりますが、経営企画に配属された人が現場のリアルを理解していない。それによって、計画と実行に齟齬が生じ、素早い対応がないまま事業が行き詰まってしまうことをよく見てきました。

武田 プランを立てる人と、実行する人が別になってしまっている。

松田 よくベンチャー企業に必要なのは経営のスピードだといわれます。これは、仮説検証のスピードなんですよね。企てる人は事前に仮説を立ててシミュレーションしているので、本来実行したときに仮説、すなわち計画との乖離の原因がどこにあるかがすぐわかる。素晴らしい起業家は、自分で事業を構想・計画し、自ら実行し、計画との乖離を素早く修正し、次なる行動につなげるPDCAサイクルの実践者です。

武田 その意識を持つことが大事なんですね。

松田 武田さんも最初は、自分で計画し、実行していたのではないですか。

武田 そうですね。企画から営業まで、すべて自分でやっていました。

松田 でも、社員が100人になってもずっと同じスタイルで経営をやっていたら、会社は成長しませんよね。ですから、さまざまな業務を人に分担していくことになります。

武田 組織化のプロセスですね。

松田 多様な経験や考えの社員が多くなると、企業が目指す方向に進んでいるのかを集中して考え、課題があれば具体的な指示を出すと同時に、役割分担に合わせて人的リソースを振り分けていく。ここまでくると、アントレプレナーは、「起こす起業家」ではなく「企てる起業家」です。

武田 アントレプレナーは、自ら行動して学習したあと、事業や組織の拡張とともに企業家に変わっていかなければいけないと。

松田 そうです。ベンチャー企業の寿命を考えるライフサイクルマネジメントのなかで、そういったステップをたどっていきます。

武田 企業の寿命というと、中小企業の支援施策も多く存在していますよね。

松田 そうですね。考えられる手取り足取りの支援施策があって、日本は企業の寿命が長いんですよ。例えば、大学で生まれた研究成果を活用して起業したベンチャーや、大学と共同研究などで起こしたベンチャーなどを総称して「大学発ベンチャー」といいますが、2009年の時点で2012社生まれていました。そのなかで倒産した会社はまだ20~30社しかないんですよ。

武田 そうなんですね。

松田 もちろん大学発ベンチャー企業がすべて利益を出して生き残っているわけではありません。利益が出ていなくても、資金が続けば会社は存続します。大学発ベンチャーは、国の補助金や共同研究、さらに受託開発等で、成長しないが存続している企業が圧倒的に多いのです。大学の研究成果を活用して日本の産業構造の革新を加速するという目的が達成できていない一因でもあります。

武田 経営が時代に合っていなくても、資金が続いてしまうと会社は倒産しないんですね。

松田 いまや中小企業の75%は赤字ですからね。厳しい状況にある中小・零細企業を支援するための「中小企業金融円滑化法」が限界中小企業の延命を可能にしてきた面もあります。新しい時代に合った産業構造の転換を図る国の長期的政策と、環境変化に適合する経営努力をしないと、100年企業がつくれません。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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