従業員が、会社の進む方向性をどのように理解し、どのように感じ、どのように行動するか――持続的成長を続ける企業では、従業員が組織の目標達成に向けて、自発的に自らの力を発揮しようとする。そして社員も成長する。これが、エンゲージメント(Engagement)という考え方だ。このエンゲージメントがどのように会社の業績に結び付くのか、科学的な指標をベースにした人材と組織の活性化を通じて企業の業績向上を支援する、世界有数のプロフェッショナルファーム、タワーズワトソンの岡田恵子ディレクターに聞いた。

従業員が会社のために
自ら力を発揮するには、
経営陣は何をすればよいのか?

――多くの日本企業はグローバル化に直面しています。その中で事業のグローバル化に対応し、事業成長に貢献できる人材をいかに確保するかが課題の一つとなっています。そこで、エンゲージメントの重要性を訴えていらっしゃいますね。

ディレクター
タレント&リワード セグメントリーダー
データ・サーベイ・人事テクノロジー部門統括
岡田恵子(おかだ・けいこ)
慶應義塾大学法学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーのコミュニケーション・スペシャリストを経てタワーズワトソンに入社。企業合併や事業統合、制度改革に伴う社内外へのコミュニケーション、企業風土、従業員エンゲージメントなどに関する戦略の立案・実施を支援し、企業の変革と成長を支援している。

 タワーズワトソンはエンゲージメントを、「従業員それぞれが、会社が実現しようとしている戦略や目標を理解し、腹落ちして、そこに向かって、自らの力を発揮しようとする自発的な貢献意欲」と定義しています。その上で、エンゲージメントの状態を測定し、同時に、エンゲージメントを上下させる要素、つまりエンゲージメントのキードライバーを統計的に特定する、というアプローチを提供しています。

――従業員満足度とは違う考え方ですか。

 最大の違いは、最終的に企業の業績向上に結び付くのかどうかにあります。「この会社は居心地がよい」と従業員満足度が高くても、それが企業業績の向上につながっているという科学的な検証結果はどこにもありません。しかし、エンゲージメントについては、従業員のエンゲージメントが高い企業ほど企業業績が向上し、戦略を実現する上で求められるカルチャー、例えばイノベーティブな社風を生み出したり維持したりできていることが明らかになってきました。

――従業員の多様な能力を、いかに会社のために発揮してもらうかが課題なのですね。

 従業員という存在に対する認識が変わったのです。19世紀は、従業員は会社にとって単なる労働力でした。20世紀に入ると「人材は人財」と言われ、企業の資産であることが確認され、いかに有効に活用するかが問われました。しかし、従業員には、世の中に暮らす生活者や消費者としての会社勤め以外の体験や知識、経験があります。これらの能力を、企業発展のためにいかに自発的に投入してもらえるようにするか。そこにフォーカスしているのがエンゲージメントなのです。言葉を換えれば、従業員の総合的な能力や資質の会社への投資を最大化させるための組織運営のあり方を探ること、といえるでしょう。

――エンゲージメントのキードライバーは、世界共通なのでしょうか。

 エンゲージメントのスコア自体は、国民性などを反映し、国による違いがあります。ただし、エンゲージメントのドライバーは、グローバルに見ると、かなり共通性が高い、といえます。タワーズワトソンが2012年に実施したグローバル・ワークフォース・スタディでは、リーダーシップ、ストレス、業務量のバランス、ゴール・目標の明確さ、上司との関わり、企業イメージ・企業のミッションがトップ5ドライバーでした。日本においては、リーダーシップがトップ5に入ってこない、という特徴があります。残りの4つは同じ項目でした。

――日本のビジネスパーソンは、会社への忠誠心が強く勤勉です。

 エンゲージメントスコアを見ると、ブラジルがトップ、トルコ、インドと続きます。日本のエンゲージメントスコアは中国や韓国に比べても低い。調査対象が各国で中規模以上の企業に働いている従業員が多いため、新興国ほど「良い企業で働けている」という意識が高く、スコアが高めになるにしても、日本は低すぎます。