貧困とは、ループから抜け出すための「選択肢」を持てないこと
<課題1 現金がない><課題2 電気がない>

――あえて質問します(笑)。途上国ではどういうニーズがあるんですか?

なぜ日本企業は<br />途上国のブルー・オーシャンに気づけないのか?中村俊裕(なかむら・としひろ)
米国NPOコペルニク 共同創設者兼CEO。
京都大学法学部卒業。英国ロンドン経済政治学院で比較政治学修士号取得。国連研究機関、マッキンゼー東京支社のマネジメントコンサルタントを経て、国連開発計画(UNDP)で、東ティモールやシエラレオネなどで途上国の開発支援業務に従事。アメリカ、スイスでの国連本部業務も経験し、ソマリア、ネパール、スリランカなど紛争国を主にカバーしていた。
2009年、国連在職中に米国でNPO法人コペルニクを設立。アジアやアフリカをはじめとする途上国の、援助の手すら届きにくい最貧層が暮らす地域(ラストマイル)へ、現地のニーズに即したシンプルなテクノロジーを使った製品・サービスを提供する活動を行い、貧困層の経済的自立を支援している。
2010年、2011年には、クリントン元米大統領が主催するクリントン・グローバル・イニシアティブで登壇。2011年にはテック・クランチが主催する「クランチーズ」で表彰。2012年、世界経済会議(ダボス会議)のヤング・グローバル・リーダーに選出された。また、テレビ東京系の「ガイアの夜明け」やNHKなどメディアへの露出も増加している。現在は大阪大学大学院国際公共政策研究科招聘准教授も務め、マサチューセッツ工科大学(MIT)、コロンビア大学、シンガポール大学、オックスフォード大学、東大、京大など世界の大学で講演も行っている。

中村 ポイントは、先ほども述べた「途上国の貧困層の人たちが実際に生活の中で直面する課題とは何か」をつかむことです。すべてを挙げればきりがありませんが、コペルニクの活動に関連する分野のなかから、6つの課題を挙げましょう。

 ・課題1 現金がない
 ・課題2 電気がない
 ・課題3 安全な水がない
 ・課題4 トイレがなく、衛生状態が悪い
 ・課題5 調理の際の効率が悪い
 ・課題6 農業の生産性が低い

――<課題1 現金がない>ですが、途上国の人たちは当然ながら経済的に非常に貧しいと思うので、それを言ってしまえば元も子もないのでは……?

中村 いえいえ、この点を確認しておくのは、とても重要です。たとえば、コペルニクがプロジェクトを行っている東ティモールのオクシ県での調査結果によると、1ヵ月の1世帯平均支出は約70ドル。1世帯の平均人数が約5人なので、1人当たりにすると1ヵ月14ドル。つまり、1日当たり50セントも使っていないということになります。この少ないお金のなかで生活に必要な食料、エネルギー代、教育費、医療費、洋服代などをやりくりしているのです。

 それに、現金がないということは何かを始めるときの元手もない、ということでもあり、チャンス(選択肢)を持てないことに直結してしまいます。また、現金が非常に少ないにも関わらず、経済活動が実際に起こっていることを知っていないと、現地でモノを売るときなどに、どういう売り方をすればいいかが見えなくなってしまいます。

――なるほど。日々の支出のパターンを知っておくことが重要、とも言えそうですね。たしかに、日本から遠隔でそこまで調べられるか、といえば難しそうです。

中村 たしかに実際に行かないとわからないことが多いです。行って初めてわかること、といえば、途上国の「夜の暗さ」もそうです。日本にいると想像すらできない暗さで、少し先ですらまったく見えない、まさに「闇」。これが<課題2 電気がない>です。

 電気がないと、わずかな明かりをともすのに、灯油ランプを使います。前回お話したとおり、灯油ランプは、高い(経済的)、危ない(火事の危険)、健康に悪い(有害な黒い煙)、環境に悪い(化石燃料と二酸化炭素排出)などなど、問題づくし。さらには家のなかはほぼ真っ暗なので、子どもは夜間ほとんど勉強することができません。もちろん困るのは大人も同じで、収入をふやすための内職もできません

――明かりがないことで、貧困のループから抜け出すことができなくなる、と。そういう意味では、<課題1 現金がない>とも関係していることがわかります。