2008年度に“メタボ健診”が導入されたこともあって、肥満に対する関心が急速に高まっている。景気後退で処方箋なしで買えるOTC医薬品(大衆薬)の売り上げが前年割れとなるなかで、漢方薬が前年比15%前後の伸びを記録している。ナイシトール85、コッコアポA錠といった“やせ薬”が牽引しているからだ。

 この伸び盛りの市場を狙って大正製薬が開発を始めるのが、抗肥満薬「オルリスタット」だ。オルリスタットは、脂肪分解酵素を不活性化し、脂肪吸収を阻害する効果があるクスリだ。このたび、英グラクソ・スミスクラインから、日本における開発・販売権を取得した。

 このオルリスタットは、医療用としては「ゼニカル」の名でスイスのロシュが、OTC医薬品としては「アリー」の名で英グラクソ・スミスクライン(GSK)が販売している。大正製薬は医療用、OTC医薬品、両方の権利を取得しているが、最終的に狙うのはもちろん、市場が大きいOTC医薬品としての販売だ。

 肥満人口が多い米国では、2007年7月にGSKが売り出したアリーは、発売後わずか半年で298.5百万㌦(約270億円)もの売上高を記録した。日本の市場を3分の1と見積もっても90億円にもなる。10億円売れればヒットと言われるOTC医薬品では十分すぎるスケール感だ。

 では、製品化まではどのぐらいかかるのか。現時点では、医療用から先に開発して一般用に転用するスイッチOTC方式と、直接OTC医薬品として開発するダイレクトOTC方式の二つが検討されている。医療用でもOTCでも、海外ではすでに発売されているクスリであるため、4~5年もあれば市場に投入できそうなものだが、現実はそう簡単ではなさそうだ。

 この薬は、吸収されなかった脂を便と一緒に脂便として排泄させるものだ。そもそも日本人は小柄なうえ、欧米人ほど食事で大量の脂をとらない。効きすぎれば副作用として下痢に似た症状を引き起こすし、効かなければダイエット効果がない。そのためクスリの用量設定を独自でかつ慎重に行なう必要があるのだ。

 さらに、日本の肥満ガイドラインに則った追加試験も必要になる。かつて医療用薬として開発していた中外製薬が開発を中止した際には、こうした「開発のハードルの高さ」が問題になった。

 ダイレクトOTC方式にも前例がある。日本で最初かつ唯一のダイレクトOTC医薬品である「リアップ」は、メーカーや当局の不慣れな部分もあって、1985年の契約から発売までじつに14年もかかった。

 今年から新販売制度が導入されるなど、当時とは環境が異なるが、どこまで開発・審査機関を短縮できるかは未知数だ。

 肉好き、脂好きなメタボ諸氏には、待ち遠しいクスリだが、登場までにはしばらく時間がかかりそうである。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 佐藤寛久)