最初から大船の舵をきらなくても、まずは小舟をおろせばいい

 自分の「やりたいこと」を突き詰め、「人と地球への尊厳ある美しいジュエリー」にいきついたとき、それまでくすぶっていた私の思いは大爆発しました。「これだ!」と勢い込み、「絶対にいける」という自信に満ちあふれていました(もちろん根拠なんてこれっぽっちもなかったのですが)。

 いますぐ会社の形にしたい。早くビジネスにして回したい。人が感動するようなジュエリーをつくりたい。ジュエリーを身につけた人の笑顔が見たい。鉱山労働者を笑顔にしたい。世界の常識を変えたい。しかし、こう冷静な自分も同時にいたのです。

「何か行動を起こしたい、と思ったとき、すぐに次のステップに挑戦したとして、その行動力は果たして『勇敢』なのか? 『無謀』なのか?」

 よくよく考えれば、今の自分には武器も、ツテも、知恵も知識もない……。ただ「仕事は辞めました! これから頑張ります!」と言っても、いったい何をすればよいのか。冷静に考え、今飛び出すのは「無謀」だ、ということは分かりました。

 では、どうするか。やりたいことをすぐにできるような力を身につけてから次のステップに進めばいい、と気づいたのです。戦える武器、ステージを自分で用意してから、大きな舵をきれば良いじゃないか、と。
 戦える武器、ステージを自分で用意してから、大きな舵をきる。私はそれを「小舟をおろす」感覚だと思っています。小舟ならば小回りがきくし、「あ、ここではダメだな」と気づけたら大船に戻れば良い。

 私の小舟での出航は、まず、働きながら夜間に通えるジュエリーの学校に申し込んだこと、でした。ここで、リーマン・ショックのあおりで仕事が一気に減ったことは少なからず幸運なことでした。仕事が終わってから、夜間の学校に通えるくらいの時間ができたのです。

 ジュエリーの知識をしっかり詰め込みつつ、事業計画を練ったり収支計画を作ったりと起業の準備に奔走していましたが、そこで問題がありました。素材の調達です。これがなければ話になりませんが、環境破壊も不当労働もなく採掘され、生産元がはっきりとわかる素材を探そうにも、ジュエリーにもビジネスにも素人の私はどうやって探せばいいのかさっぱりわからない。

 そこで、留学時代・国連時代の知り合いに片っ端から連絡をとり、やろうとしていることのコンセプトを伝えてお願いしました。「鉱山の情報を持っている人を紹介してほしいんです、どんな小さな情報でも構いません」、と。藁にもすがるような思いでしたが、しばらくすると、少しずつ蒔いた種に芽が出始めました。

 友人から、「ベリーズで青年海外協力隊として活躍したあと、現地の男性と結婚してそのまま住んでいる方がいる」と連絡をもらったのです。すぐに紹介してもらい、コンタクトをとりました。彼女と話している中で「知り合いに貝を研磨する職人がいる。彼はとても高い技術を持っているのにもかかわらず、中間業者に搾取され生活に困っている」と言われたのです。それは、まさに私が解決したいこと。

「ぜひ私と取引しましょう!」

 こうして、ベリーズの貝の取引を始めることができました。まさに「知り合いの知り合いの知り合い」とつながっていったのです。