たった一人では誰でも心が折れる

 かつて、クレームの持ち込み先は、企業が設けたサポートセンターの窓口ぐらいしかありませんでしたが、いまは苦情をメールで送りつけたり、携帯電話で撮影した写真や動画をネット上に公開したりすることができます。

 個人は、組織に「直接対決」を挑まなくても、ほかの一般消費者と一緒に「包囲網」を敷き、「消費者全体への裏切り行為だ!」などと、絶対多数を背景に攻め込んでくるわけです。

 しかし、クレームを受ける担当者こそ、本当の弱者ではないでしょうか? クレーマーは、相手が殴り返してこないことをいいことに、やりたい放題です。

 こんな情景を思い浮かべてください。舞台は、古代ローマ時代のコロシアム(円形闘技場)。そこでは、剣闘士が生死を賭けて戦いますが、観衆であるローマ市民は、すべて相手方の応援団。観衆は総立ちとなり、興奮に包まれたコロシアムは完全にアウェーの状態です。

 しかも相手は、なんでも貫き通す「無理槍」という強力な武器を手に連続攻撃を仕掛けてきます。一方的に「誠意を見せろ!」と叫びながら襲いかかってくる相手に、ルールは通用しません。

 しばらくは持ちこたえるものの、心は折れかかっています。

 ついには、なす術もなくコロシアムの真ん中で一人途方に暮れる――。これが、理不尽なクレーマーに対峙する現場担当者のイメージです。