日本人のいいところは「真面目さ」に尽きる

 フランスが週35時間労働になったことで、チャンスが広がったというのは、今回の取材でも多くの方から聞いた話。レストラン ソラもやはり、キッチンはフランス人ではなく日本人だけで回しているといいます。

「うちは週5日営業で、日・月が休みですが、月曜日はほぼ全員出勤して仕込みをします。休憩時間だって、あったとしても1日30分くらいという状態。そこにフランス人を入れてしまったら、たぶんいろいろ問題が起きると思うので」

 フランス人の全員が全員、怠け者というわけではないし、アストランスの例のように、とにかく集中して効率よく働く人もいるでしょう。でも、一定以上の労働を課すことを法律で禁じられていることが、そもそもフランス人を使いづらくしているのです。そして長時間働けること以外に、日本人がフランスで評価される理由、それはやはり「真面目さ」でした。

「ちっちゃなことでも、本当にすごく深くまで考えるし、日本の調理場でも気をつかうことを叩き込まれています。お客さんに対しても、料理に対しても、スタッフに対してもそう。常に真面目に、一つひとつ丁寧にできるのは、日本人ならではでしょう。ただ、フランス人に比べると頭の固いところもあって……」

 1960年代の高度経済成長期、フランスが労働力を確保するため移民政策を行ったことで、パリには現在、いろいろな国・人種の人がいます。そんなこともあって、どんな国籍、どんな考え方の人でも、柔軟に受け入れてくれる土壌があるのでしょう。
 今の日本人の評価は、本来持っている真面目さといういい部分と、フランスの柔軟さ、その2つがうまく合わさった結果つくられたのかもしれません。

「さすがに注文した魚がちゃんと来ないとか、現地の人のルーズなところは苦労しますね。でも、それにいちいち腹を立てていてもしょうがない。もうずっと海外でやっているから慣れてしまったし、そんなに苦労とも思いませんね。毎日が楽しいので(笑)」