証券最大手の野村ホールディングスが、アジアにおけるビジネスを拡大しつつある。

 その象徴ともいえるのが、11月10日に野村が獲得した、マレーシア通信大手で携帯電話事業会社のMAXIS BERHADの新規上場の共同主幹事だ。もともとマレーシアには拠点を持っていた野村だが、旧リーマン・ブラザーズの人材獲得によって、一気に案件の具体化が進んだかたちとなった。

 上場規模は32億ドルと東南アジア最大規模で、今年度の新規上場では世界で4番目に相当する。6社の共同主幹事のうち、野村は販売額でも上位に名を連ねた。

 旧リーマンの欧州・アジア部門を承継した野村は今年7月以降、すでに欧州におけるビジネスで成果を出し始めている。とりわけ目立つのはロンドン証券取引所の株式取引件数で、取引シェアは現在7%を超え、3ヵ月連続の1位となっている。

 債券・為替などのトレーディング業務も、2009年度第2四半期は、売上高に当たる純営業収益が766億円にも達し、前年同期比でプラスに転換。取扱商品も、国内の仕組み債が中心だったかつての状況から一変、現在は海外の高流動性商品(国債や格付けの高い社債など)が中心となっている。

 こうした結果、同四半期は国内だけでなく、米国・欧州部門でもそれぞれ黒字を達成。海外利益が国内利益を上回り、まさにグローバル企業への変革を遂げつつあるわけだ。

 ただ課題となっていたのが、日本を除くアジア部門だった。09年度中間決算でも唯一、地域別の損益で赤字だったのがアジアで、なかでも投資銀行業務は、依然として人件費に見合う収益が上がっていないのが現状であった。

 そんな矢先、今回の新規上場案件の獲得は、アジア部門の収益化に直結するとあって、「販売責任シェアこそ高くはないが、共同主幹事に入れただけでも嬉しい」(野村担当者)と自信をのぞかせる。

 もっとも世界を見渡せば、黒字化したとはいえ旧リーマンの事業を引き継がなかった米国市場でも、依然として欧米の金融機関に比して見劣りするのも事実。野村は現在、増資による資金調達によって、手始めに米国で積極的な人材採用を進めるものの、過去にも失敗を重ねているだけに、戦略の再構築の舵取りに業界の注目が集まっている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)

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