安定供給か需要調整か

 電力業界ではよく安定供給ということが言われる。需要の増加をカバーするように供給能力の拡大を促すことを意味するのだろう。電力は特殊な商品であり、一瞬たりとも供給が需要に追いつかないと、電圧が大きく低下したり、あるいは周波数が乱れたり、最悪の場合には広域での停電(ブラックアウト)といった事態にもなりかねない。

 そうした事態に陥らないためにも、あらかじめ供給能力に余裕を持たせて、需要が増えてもそれに対応できるようにしておく必要がある。電力の需要が比較的少ない季節や時間帯には発電装置の一部は停止しているが、真夏の日中のように電力需要が拡大していけば、あらゆる発電装置が動き、電力需要を満たすことになる。

 原発がすべて停止している現在は、そうした電力のやりくりが非常に難しくなっている。新聞などにその日の余剰発電量のデータが示されているが、真夏などは余剰発電力の規模が非常に小さくなっている。そこで政府や電力会社は、電力需要を抑えるためにさまざまな需要抑制策をとるのだ。

 福島の原発事故にいたるまでの日本は、拡大する電力需要に対応する供給能力を確保するため、原発の発電能力を拡大してきた。原発以外の発電装置への投資も続けられてきたが、基本は原発による発電量の拡大に依存してきた。これが安定供給の基本にあった。

 需要が増えるからそれに応じて供給を確保しようという安定供給の考えは1つの理想ではあるが、それだけで需要の変動に対応しようというのは無理がある。供給に制約があれば、それに応じて需要を調整し、需給のバランスを調整しようとする動きがあってもおかしくない。電力業界ではこれを「ディマンド・レスポンス(需要調整)」と呼ぶ。

 安定供給のために電力供給能力を確保していくことは、これからも日本にとって重要である。ただ、これまで以上にディマンド・レスポンスの可能性を模索していく必要がある。電力は時間帯や季節によって需要量が大きく変動するという特徴がある。これが安定供給を難しくしている面もある。しかしそれを逆手にとれば、ピーク時の需要をうまく抑えられ、年間を通じた需要と供給の調整が可能になるのだ。