ニューロマーケティングと行動観察は、
商売人の街・大阪の文化に育てられた

――お二人は、大阪出身で、大学のみならず、高校も同じだとうかがっています。大阪という街には、ニューロマーケティングや行動観察のように、新しい分野を成長させる土壌があるのでしょうか?

谷井 大阪でIT企業を経営していて思うのは、IT企業は、東京に一極集中している産業だということです。毎日、同じようなITベンチャーを回っていたら、独自のサービスは生まれにくいかもしれません。

 大阪の人たちは、オリジナルであることが大好きなんです。後追いして儲けようというのではなく、われわれしかやっていないことを世に問うて、認められたい。その点、流行に対しては一歩引いて見ています。情報に翻弄されることなく、うまく活用していると思いますね。

松波 オリジナリティを大切にするという面がありますね。東京の人からは、関西人は「言いたいこと言う」「話にオチを求める」「せっかち」と言われることが多いですが、むしろ、関西人のほうが国際的標準に近いのではないかと思います。

 大阪は商売人の文化なので、言いたいことはちゃんと伝えないといけない。ただし、角がたってはいけないから、そこに冗談を交えることが多い。関西の漫才が発展した理由も、そこにあるかもしれませんね。

谷井 大阪にいると、日本にいるというより、アジアの1つの国にいるような感じがありますよ。東京、大阪、名古屋、福岡…と括られるよりも、ホンコン、ホーチミン、オオサカといった印象です。

松波 ある種、本音で生きていますね。ここで大事なのは、物事を東京だけから見るのでなく、大阪から見るように、自分の枠組みと違う視点で物事を見るということだと思います。イノベーションは、自分の枠組みだけから見ていると起こすのは困難です。谷井社長も、会社を辞めてはじめて見えたことがあった。自分の持っている枠組みの外に出て、気づくことが重要なのだと思います。

 それは、外国に行くとよくわかりますよね。日本では当たり前のことが、その国では当たり前ではないことがある。外国に行ってはじめて、日本の考え方の枠組みに気づく。それと同じように、違いを持つ他者を観察することで、その考え方の枠組みを知ってはじめて、自分では気づいていなかった自らの価値観や思考の枠組みを把握することができます。自分で自分を観察することは難しい。なぜなら、自らのバイアスに自分ではなかなか気づけないからです。

 これからの時代、違う観点を取り入れる必要性に迫られると思います。しかし、自分の会社や組織が持っている枠組みだけで思考していては、新たな気づきや発想を得ることは困難です。だからこそ、さまざまな“場”に足を運んだり、他社と組んだりしてやっていく。そんな時代だと思います。