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4月9日 18時0分
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視線の偏差 2014 - 広木隆「ストラテジーレポート」

ルビンの壺

2年前に「視線の偏差」というレポートを書いた。レポートのタイトルは中学受験の入試問題として出題された竹田青嗣さんの文章からの引用をもとにしたものだった。

<ふつうは、自分のメガネが歪んでいるのか、色がついているのか、誰にも決して分からない。このことに気がつくのは、他人がみているものと、自分が見ているものとの違い、偏りに気づくときだけです。これを「視線の偏差」とか「視差」と言います。(中略)
もちろん、他の人もみな自分の「自己ルール」を自分のメガネとしてかけている。だから、例えば相手の感受性や美意識が「正しい」とはかぎらない。厳密に言うと、すべての人が自分なりの「メガネ」をかけているので、絶対に正しい「メガネ」というものはないのです。
しかし、われわれは相互の批評を通して、さまざまな人の「自己ルール」と自分の「自己ルール」との偏差を少しずつ理解し、そのことではじめて自分の「自己ルール」の大きな傾向性や問題性を了解することができるわけです> (竹田青嗣 『中学生からの哲学「超」入門―自分の意志を持つということ』 筑摩書房)

代表的なだまし絵のひとつに「ルビンの壺」と呼ばれるものがある(「ルビンの盃」「ルビンの顔」など他の呼称も多い)。デンマークの心理学者エドガー・ルビンが考案した多義図形である。向き合った2人の顔にも大型の壷(盃)にも見えるだろう。同じひとつの絵を見ながら、視点をどちらに合わせるかで見えるものが違ってくるというところがミソである。



先日書いた「為替に遅れる日本株」というレポートを読んだ読者から、こういうご指摘をいただいた。
<グラフ1の説明ではドル円相場が正しくてそれに日経平均が追いついていない主旨であるのでしょうが日経平均が正しくてドル円が離れてしまっていると解釈しない根拠があるのでしょうか?>



まさにおっしゃる通りである。

最近の相場を見て感じていたのは、それほど円高が進んでいないのに株の下げがきついということだった。昨日も、ドル円もやや円高になったが、株式の取引時間中はそれでも103円前後(その後、円高が加速したのは15時半からの黒田総裁の会見を受けてからである - 後述)。一方、日経平均は200円も下げた。昨年までの相場では日本株とドル円というのはほぼ同じ動きをしていた。「円安・株高」、「円高・株安」がセットだった。これは今も基本的には変わっていないが、水準がずれてしまった感がある。

例えば、去年の関係をもとにすれば(グラフ2)、現在の為替水準(102円前後)では日経平均は1万5000円を割り込んでいない。一方、現在の日経平均の水準(約1万4300円)を基準にすれば、ドル円はとっくに100円割れの感覚である。



どこでずれてしまったかというと、年初からの下落局面において2月の初めに一番底をつけにいく過程。そこで日本株があまりにも売られ過ぎたように見える。但しこれは、ルビンの壺ではないが視点の置き方を変えれば円が買われなかった、円の上値が抑えられたとも見ることができる。
ちょうどその時期、1月の経常収支は1兆6000億円近い過去最大の赤字を記録した。そこから日本の経常収支や貿易赤字に一気に脚光が当たりだして、円高になりにくくなっている。日本株が為替に追いついていないのではなく、円が買われない=円の妥当値が切り下がったと見るべきではないか。

しかし、円安は円安である。問題は、それにもかかわらず株価が反応しないのは、今の円安がそれほど性質(たち)の良いものではないと株式市場が薄々感じ始めたからなのではないか。以前のように手放しで円安を喜べない、というか円安をディスカウントして評価するようになっているのではないか。そうなるとちょっと厄介だなあと思う。

目は口ほどに物を言う

「それほど円高が進んでいないのに株の下げがきつい」などと思ったとたんに、急激な円高である。週初は米国株安で下げ、米国株が下げ止まったと思ったら、今度は円高で売られる。悪い材料ばかりを拾ってくる。今はそういう流れだからどうしようもない。ポーカーでも麻雀でも、手が悪い時はどうしようもない。流れに逆らわず、良い手、勝負手が入るのを待つしかない。

昨日から今日にかけての円高進行は、金融政策決定会合後の黒田総裁の記者会見がきっかけである。それで日銀の追加緩和期待が後退した。間違っていけないのは、今般の決定会合が現状維持を決め、追加緩和を見送ったから失望売りで下げているわけではない。そもそも今回の決定会合で追加緩和を見込む市場関係者はほとんどいなかった。事実、「現状維持」と結果が伝わった昨日の後場寄りには一旦材料出尽くしで買い戻しの動きも見られたくらいだ。追加緩和期待の後退というのは、この先々の期待がしぼんだという意味である。例えば4月30日、物価展望レポートの公表と同じタイミングでの緩和を見込む向きもいる。圧倒的に多いのが7月の追加緩和観測。しかし、昨日の黒田総裁の会見は、そうした将来の緩和期待を一蹴するかのようであった。

では、それほど強い主旨の発言があったかと言えばそうではない。むしろ、黒田総裁の発言内容はこれまでと大きく変わったところはないに等しい。では何がそれほどまでに将来の緩和期待を潰えさせたのか?

僕は今回から初めて解禁された「ライブ映像」の配信ではないかと思う。日本経済新聞電子版や日経CNBCが、黒田総裁の記者会見の模様を生放送で中継した。僕もCNBCを見ていた。満面の笑みをたたえ、自信満々で会見に臨む総裁の姿を見ていた。見て思った。「ああ、これでは追加緩和期待は潰えてしまう」と。

米国の心理学者、アルバート・メラビアンは著書『Silent messages (邦題:非言語コミュニケーション)』でコミュニケーションには三つの要素があると主張する。それらは

・ 言語
・ 声のトーン (聴覚)
・ 身体言語(ボディーランゲージ) (視覚)

の三つである。そして、コミュニケーション、すなわち意志やメッセージの伝達に占める割合は言葉が7 %、声のトーンや口調は38 %、ボディーランゲージは55 %であるというのだ。

「怒ってる?」と聞かれて、「怒ってないよ」と優しく微笑みながら言えば、相手は安心するだろう。反対に、同じ「怒ってないよ」という言葉を発するにも、憮然とした表情で強張ったトーンで突き放すように言えば、それは「怒っている」と言っているに等しい。

黒田総裁が述べたことはこれまでと同じだったとしても、声のトーンや表情のほうがはるかに総裁の「心中」を伝えていたのだろうと思う。

と、いうのは半分本気で半分はジョークだ。円高が加速したのはロンドン市場〜ニューヨーク市場。どれだけの為替ディーラーが黒田総裁の映像に影響されたのかはわからない。無論、海外時間で再度ウクライナ問題が緊張したということも円高が進行したひとつの要因かもしれない。
ただ、いずれにせよ日銀の追加緩和期待の後退が、今日の円高・株安の背景にあるのには間違いがない。ここでもう一度、ルビンの壺を思い出してほしい。見方を変えれば別のものが見える。日銀の追加緩和については、「期待」や「観測」が後退しただけであって、追加緩和そのもの可能性がなくなったわけではない。それは黒田総裁が従前から述べている通り、状況次第である。ということは、状況が悪化したら緩和に動くわけだから、「保険」がかかっていることにはかわりない。

今でもすでに状況は最悪じゃないかって?そうでもないだろう。別に強気ぶって言うわけじゃない。冷静にチャートを眺めれば、日経平均は安値を切ってはいない。2月初旬の1万4000円を底値に、その後は1万4200円すれすれが2番底である。今回はまだそこまで下げていない。上値切り下げ型の三角保ち合いである。



日経平均は今日で三つ窓を空けた。酒田五法では「三空に売りなし」と言われ、絶好の買い場となる。

無論、今晩の海外市場次第ではある。

昨日の米国株式市場の引け後、非鉄大手アルコアが1〜3月期決算を発表した。最終損益が1億7800万ドルの赤字だったものの、リストラ関連費用などの特別項目を除く1株当たり損益は0.09ドルの黒字で、市場予想(0.05ドルの黒字)を大幅に上回った。これを受けて時間外取引でアルコア株は一段高となった。通常取引を前日比0.5%高の12.53ドルで終えた後、12ドル台後半まで上昇した。非常にさいさきのよい決算シーズンのスタートとなった。

米国株がここで下げ止まれば、日本株も少なくとも週初に売られた分は取り戻していいだろう。

今日、述べたルビンの壺、視線の偏差ということは、僕が常々述べている、「ものごとには必ず二面性がある」ということと同じである。昨日の黒田総裁の会見で追加緩和期待が大幅に後退したかもしれない。しかし、それは同時に、もしも追加緩和があったときには逆に強烈なインパクトを市場に与え得るということだ。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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