橘玲の世界投資見聞録 2014年4月10日

テロに不感症になっている
レバノンの首都ベイルートのひとびと
[橘玲の世界投資見聞録]

 ペトラ遺跡と死海を観光してアンマンに戻ると、テレビのニュースに爆発で壊れかけたビルが映し出されていた。2013年12月27日に起きた爆弾テロで、反シリア派のレバノン元財務相を含む5人が死亡、70人以上が負傷した。現場はベイルートの中心部で、これからまさに行こうとしている場所だ。

 レバノンの首都ベイルートでは2013年5月に住宅地にロケット弾2発が射ち込まれ、7月に駐車場の車が爆発して50人以上が負傷し、8月にはやはり車爆弾で14人が死亡、212人が負傷した。さらに11月にはイラン大使館前の路上で連続爆弾テロが起き、大使館職員を含む23人が死亡、140人以上が負傷している。だがこれらの事件はすべてシーア派住民が多く住む南郊外で起きており、行政機関が集中し観光地としても知られる中心部――東京でいえば銀座や丸の内――が標的となることはなかった。

 私は一介の旅行者で危険な場所に行く気はないのだが、いまさら旅程を変えるわけにもいかず、事件の翌日、恐る恐るベイルート空港に降り立った。しかし到着ロビーを見回しても警官の姿はなく、目につくのはタクシーの客引きばかりだ。そのなかの一人と料金交渉がまとまると、彼は満面の笑みでいった。
「ウエルカム・ベイルート!」

”中東のパリ”の言われていたベイルートの今

 イスラエルとシリア挟まれたレバノンはずっと苦難の歴史を歩んできた。かつては“中東のパリ”と呼ばれた美しい街並みも1970年代の内戦ですっかり荒廃してしまった――と一般には思われている。だが写真を見てもらえばわかるように、再開発によってダウンタウンはパリの街角と見紛うばかりによみがえった。

ベイルート湾に近いバブ・イドリス地区のベイルート・スーク。内戦時代は荒廃していたが、再開発によって見違えるように生まれ変わった  (Photo:©Alt Invest Com)

 この驚くべき変貌は、2000年から04年まで首相を務めたラフィーク・ハリーリの復興事業によるものだ。ハリーリは日本でいうと田中角栄のような人物で、サウジアラビアで教師をしたあと1970年代に建設会社を興し、原油価格の高騰で空前の好景気に沸くサウジアラビアの建築業界で大成功を収めた。その富と政治力(サウジ王家の支持)を引っさげて故国に凱旋したハリーリは、1990年代からアラブ湾岸諸国や欧米の政府・企業と組んでさまざまな復興事業を手掛け、政界に進出した。

 レバノンの複雑怪奇な歴史は私のような門外漢が説明できるようなものではないのだが、内戦終結後の1990年代以降、つかの間の平和を取り戻したのは隣国シリアが軍事力によって実質支配していたからだとされている。シリアとレバノン(それにパレスチナも)は“大シリア”と呼ばれ、歴史的にはひとつの地域だと考えられてきた。だからこれは一方的な軍事支配(植民地化)とはいえないのだが、その実態を国際社会は黙認しても正当と認めたわけではない(今のクリミア問題と似ている)。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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