実務と学問の融合で生まれる新しい価値

琴坂 この結果は、海外に学術論文として出したほうがいいですよ。ちなみに、誰か出さないんですか?

安宅 できれば研究所の所員に書いてもらえたらと思います。選挙だけではなく、ヘルスケア領域だと、とある治療薬の検索量とインフルエンザ患者数が0.99の相関です。こういうデータを使えば、病気の伝染の広がりも見えてきます。

 そして、これらの結果を導くために必要な人員は、レポートごとにデータ抽出・解析に1、2名、ライターが1名と少数なんです。その人たちの2~3割×1~2週間で毎回レポートを出しています。なぜここまで軽く回るのかというと、プロジェクト・マネジメントができているから。僕に大きな負荷はなく、気持ちよく毎回やっているわけです。

琴坂 これを社会科学の論文にするためには、知の系譜に編み上げていく必要がありますね。これがなぜすごいのかについて、これまでの研究の蓄積をレビューして、その蓄積に編み込む議論を展開しなければならない。

安宅 それが面倒くさくて書いてないんです(笑)。

琴坂 とくに経済学系の若手研究者が相当海外に行っていますが、彼らはよく「実証データが欲しい」と言っています。たとえば、そことコラボレーションできたら、日本のサイエンスが変わる、社会科学のポジショニングが変わるんじゃないかというくらいの結果だと思います。

安宅 ありがとう。Yahoo! JAPANのデータはとにかく量と種類が多いんです。普通の時間でも1秒数万のアクセスがあり、付帯する情報を含めてぼうだいなデータがあります。たとえば、ある日、どれか1つのサービスの利用データをもとに緯度・経度情報をプロットしたら、勝手に日本地図が書けてしまう。ただ、さっきの話につながりますが、どう使うかが難しいと思う。

琴坂 そこに社会学、経済学者、経営学者がもっと入り込んでいって、データを活用して、人類の知を再現性ある形でまとめることはできないものでしょうか。もったいないと感じてしまいます。

安宅 だね。問題は、こうしたデータへのアクセスは内部の人しかできないということ。しかも、個人のIDと属性データを完全に切り離してあるのは当然ですが、その環境のなかでも、ディープなデータに触れることができる人は限られています。

琴坂 経済学博士号とか経営学博士号の人間が採用されたら、そういう分野にもかなり新しい知見が生み出されるかもしれないと思います。ハードコアなサイエンスの素養を持つ人に、もっと実務で活躍してもらいたいですね。

安宅 ですね。ただ、それだけではなくて、マシンラーニング(機械学習)にもある程度詳しい必要がある。そもそも、うちのデータ部隊のサイエンティストは、マシンラーニングに詳しいか、そうした素養がある人しか採用しないからね。

琴坂 マシンラーニングにも詳しくて、かつ社会科学の素養があって、アカデミックに体系化ができる人は……いませんね(笑)。でも、もしそういう希有な人材がいたとしたら、本当に何かが起こるかもしれないですね。