湯浅 誠
ゆあさ・まこと/NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長。1969年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。90年代より野宿者支援に携わり、現代の貧困問題を現場から訴え続ける。
(撮影/加藤昌人)

――非正規労働者の生活の厳しさが指摘されて久しい。

 非正規労働者の賃金は30代で290万円くらいで頭打ちになり、40~50代になっても増えない。一方、正社員の賃金は、40~50代で急激に伸び、退職手前で落ちるというカーブになっている。

 日本では教育費をすべて、家計が持たなければいけない。子どもが育つに従って家計の支出は増えるという高コスト生活になっている。そのため、収入もそういうカーブを描かない限り、結婚もできないし子どもも産めないということになる。

 対してヨーロッパは、19世紀以来の福祉国家型の社会を目指すなかで、低コスト社会をつくってきた。だから、ヨーロッパでは賃金カーブは40~50代になってもフラット。なのに、なぜ生活できるのかというと、学費がタダであるとか社会保障で家計がカバーされているから。

――日本もヨーロッパ型の福祉国家を目指すべきということか。

 そうではなく、まずは賃金と社会保障をセットで考える必要がある。今は、経営者は賃金は上げられない、国は社会保障の財源がないというどっちつかずの状態。

 だが、両者でうまく 日本型 のすり合わせを模索しながら、少しずつでも賃金が上昇していき、今より多少は低コストの社会をつくっていくしかない。

 また、ヨーロッパ型の福祉国家では、その高コスト体質が批判の対象になったが、制度を支え切れなかった要因の1つに、制度外の個別ケアの領域に対応できないということがあった。それは日本でも同じ状況だ。

――個別ケアの領域とは?

 自分自身が虐待を受けてきて、子どもにも虐待を働く親、精神疾患を持っていて子どもの養育を十分にできない親……。彼らは、生活保護を受けて最低限の生活はできるかもしれないが、それだけでは家庭が立ち直り、子どもがきちんと養育されていくという道筋が見えてこない。