チャネルの多様化に伴い、顧客データは膨れ上がる一方だ。データ分析で有益な洞察を得るためには、どこから手をつければよいのか。マッキンゼーの顧客体験専門家が、焦点を絞ったデータ分析によってカスタマー・ジャーニーを向上させるヒントを紹介する。本誌2014年5月号(4月10日発売)特集、「アナリティクス競争元年」の関連記事第3回。


 その昔、まだ限られた数の販売チャネルしかなかった頃、顧客とブランドの間のインタラクションは比較的単純だった。それがいまでは、顧客の半数以上が1つのタスクを完了するために3つ以上のチャネルを経由している。

 たとえば今日、銀行口座を開こうと思ったら、顧客は複数のチャネルを辿るジャーニー(旅)に乗り出すことになる。ネットで下調べをする、申請書をダウンロードする、コールセンターの係と話す、証券口座を連動させる、支店に足を運ぶ、銀行のモバイル用アプリをインストールするなどだ。それらの足取りは、長く複雑なデジタル痕跡として残る。マルチチャネルの複雑性、そしてデータの規模(アメリカ企業は少なくとも150テラバイトのデータを保有している)は、顧客行動に関するインサイトの読み取りをきわめて困難にしている。

 しかし、顧客体験の向上とビジネスの成長を図るうえで、このデータの解析は不可欠である。我々の経験では、最も生産的な方法は個々のタッチポイントを改善することではなく、カスタマー・ジャーニー全体――顧客がタスクを達成するために必要な、ブランドとの一連のインタラクション――を向上させることだ(詳しくは、HBRの論文"The Truth About Customer Experience"を参照)。マッキンゼーの分析によれば、ジャーニーから得た洞察を活用する企業は、同一サービスの繰り返しが15〜20%減少し、クロスセルが10〜20%増加し、顧客離反が10〜25ベーシスポイント低下した。

 企業がビッグデータをカスタマー・ジャーニーの改善に活かすためには、3つのことを念頭に置く必要がある。

1.最も重要なジャーニーに的を絞る
 1ビット、1バイトも漏らさず分析しなければいけないと考えている企業もあるだろう。しかし我々が多数の業種を分析した結果によれば、顧客と企業の収益に大きく関係するのは、せいぜい3つから5つのジャーニーだ。一般的に、販売とオンボーディング(新規顧客にサービスの価値や利用方法を理解してもらうための情報提供プロセス。チュートリアルなどが例)、1つか2つの主要なサービス関連事項、転居とアカウントの更新、そして不正行為・請求・支払いに関するもの、のうちいずれかの組み合わせだ。それらのジャーニーに的を絞れば、データの混乱を避け、優先順位をつけることができる。

 たとえばあるケーブルテレビ会社は、慢性化している顧客離反とロイヤルティに関する問題に対処するために、マルチチャネル化した顧客行動に対して高度なデータ分析を適用した。その際、2つのジャーニー――オンボーディングと問題解決――で顧客の離反が発生している場所に焦点を合わせた。データチームの助けを得て、サービス上の重大な問題箇所を特定し、オンボーディングのプロセスを改善する方法を見出した。この発見がいくつかの施策変更につながった。その1つが「学習ラボ」の設置であり、新しいアプローチの試行と改良を行うための組織として効果的に機能している。こうした変更により、顧客満足度が20%以上向上した。