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アマデウスたち

石川直樹
自然に記録というくさびを打つ

週刊ダイヤモンド編集部
【第37回】 2008年7月11日
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石川直樹
写真 加藤昌人

 17歳の夏、一人インド、ネパールを放浪した。路傍に転がる死体、カラスと一緒にゴミをあさる老婆。「世界はこんなにも落差に溢れているのか」と痛感した。それ以来、自分の常識が通じない世界を知りたくて、旅を続けてきた。

 23歳で、北極点から南極点まで9ヵ月かけて走破した。翌年には、わずか5ヵ月間で南米アコンカグア、チョモランマなど4つの高峰に登り、7大陸最高峰登頂の最年少記録を塗り替えた。人びとは若き冒険家と呼ぶようになった。だが、自然に挑もうと思ったことは一度もない。「散歩に出かけるのと変わらないから、決心などいらない」と言う。あくまでも、自分の外側に限りなく広がる世界に、身を置いてみたかっただけなのだ。

 「旅が深まる」から、常にカメラを携える。きっちりと構図を決め、シャッターチャンスをじっと待ち構えるような撮り方はしない。ありのままの自然や人びとの日常のふとした一瞬を、「記録というくさびを打ち込むようにして」カメラに収めてきた。

 極北の民イヌイットが鮮血に染まりながらアザラシを解体する姿。温暖化で砂浜が侵食され、倒壊してしまった彼らの家屋。作品性や自意識をできる限り排除し、記録に徹しているはずの写真が、強烈なメッセージを発する。そのとき、われわれは世界が失おうとしているものの尊さを、再認識せずにはいられない。

(ジャーナリスト 田原 寛)

石川直樹(Naoki Ishikawa)●写真家。1977年生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士課程在籍、多摩美術大学芸術人類学研究所研究員。2006年、さがみはら写真新人奨励賞、ニコンサロン三木淳賞受賞。写真集に『POLAR』『THE VOID』、著書に『全ての装備を知恵に置き換えること』など。

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