“愛国奴”に
共鳴する台湾知識人

 2011年5月、私は台湾で《愛国奴》(大塊文化出版社)という本を出版した。“愛国奴”には「知らぬ間にお国を売っていく人たち」という定義をした。

 お国を売っていると分かっていながら実際にお国を売っている“売国奴”に比べて、“愛国奴”は社会のなかで無数に、無自覚に、無作為に蔓延していくという意味で厄介であり、たちが悪いというトーンで筆を進め、ナショナリズムが国家や社会から理性を奪っていく現象の危険性を指摘した。

 同時期、私は初めて台湾を訪れた。

 《愛国奴》の出版記念イベントに出席することが目的だったが、関連して行われた座談会には、現地で影響力のある政治家や社会活動家、評論家や学者たちが参加してくれた。特に、1980年代から1990年代にかけて民主化を求める学生運動(台湾では通称「学運」)を引っ張ったリーダー格たちが積極的に議論に加わってくれた。彼らは「自由や民主主義は我々自らの行動で勝ち取るものだ」と力強く主張していた。

 国家と民族の関係、社会と市民の関係などの観点から、「国家が健全に発展していくために、国民はどうあるべきか?」という人類社会における普遍的テーマを語り合った。

「台湾にも愛国奴はたくさんいる。愛国奴ではなく、真の愛国者を育てていかないと、台湾の未来は危ない」と主張する知識人が複数いたことには、インパクトを感じずにはいられなかった。

中国での出版禁止から学んだ
台湾と香港経由のアプローチ

 《愛国奴》は当初中国で出版する予定であった。そもそも、中国で言論活動を続ける過程で、日中関係という渦のなかで、ナショナリズムや愛国心といった現象が私の脳裏で日増しに“問題化”していったことが、拙書を書くきっかけとなった。

 しかし、結果的に出版はできなかった。