たとえば、何かの問題が発生したときに、原因となったプロセスを調べて手書きのチャートにする。そうすることで、「どのプロセスまでが正常で、どの部分に異常があったから問題が発生した」という原因が明確になった。部署の責任者に説明するときにも、単に口頭で説明するだけでは水掛け論になりがちだが、チャートを使えば、お互いに共通認識を持ちながら説明することができ、相手の納得も得やすく、同じ誤りを繰り返すことが極端に少なくなっていった。

 この全社的な業務改革の取り組みは七年にわたって続き、完璧とは言えないものの一定の成果を挙げることができた。後にその成果は日本能率協会の発行する事例集で紹介されたのだが、これもかなりの反響があった。驚いたのは、トヨタがその反響を聞きつけて、私に話を聞きたいと言ってきたことだ。

 当時、トヨタの「カイゼン」はすでに世界中に知られるものとなっていたが、そのトヨタでさえも、ホワイトカラーの業務改善には手をこまねいていたのだ。

 私はトヨタ本社の教育関連の部署からお招きを受け、大勢のトヨタ社員の前で、矢崎総業の業務改革の取り組みを紹介した。専門メーカーとはいえ、下請け会社の一社員が、得意先のなかでもナンバーワンのお客さまの面前で講演するなんて前代未聞の話だが、学べるものなら下請けからでも学ぼうという貪欲さや懐の深さはトヨタらしい部分と言え、素直に耳を傾けていただき、その姿勢が今でも印象に残っている。

 このような経験から私は、ホワイトカラーの業務を改革するには業務プロセスを可視化しなければならないと再確認することとなり、それがやがて「業務プロセス可視化法およびチャート作成システム」の開発に執念を燃やす日々につながっていった。


次回「サムスン電子の改革を機に、新たな道を見つける」は、4月28日(月)配信予定です。

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