橘玲の世界投資見聞録 2014年4月24日

映画で理解するレバノン内戦と数奇な現代史
[橘玲の世界投資見聞録]

 キリスト教vsイスラム教、スンニ派vsシーア派に加え、シリア、イラン、サウジアラビア、イスラエルなどの周辺国家、さらにはアメリカやフランス、ロシアなど大国の思惑まで絡んだレバノンの数奇な現代史を私のような門外漢が解説するのはとうてい不可能だ。そこでここでは、レバノンの内戦を描いた映画とその背景を紹介してみたい。

アニメ映画『戦場でワルツを(Waltz with BASHIR)』

『戦場でワルツを(Waltz with BASHIR)』は監督アリ・フォルマンの体験にもとづいて制作されたイスラエルのアニメーション映画だ。アニメになったのは、自分が目にした現実を実写で撮ることができなかったからだという。彼が体験した出来事は、サブラ=シャティーラ事件として知られている。アリ・フォルマン監督はイスラエルの歩兵としてその現場に居合わせたのだ。

 映画の冒頭で、軍隊時代の友人と再会した主人公のアリ・フォルマンは、彼から毎晩のように悪夢にうなされていると打ち明けられる。野犬の群れに追いかけられているのだが、それがなにを意味するのかがわからない。友人は、悪夢は自分たちが従軍したレバノン内戦に関係しているというのだが、フォルマンはその時期の記憶が完全に欠落していた。1982年にレバノンにいたことは確かなのだが、覚えているのはベイルートの海岸で、海水浴をしながら夜空に打ち上げられる照明弾を眺めていたことだけだ。

 こうしてフォルマンは、自分の失われた記憶を探す旅に出る……。

『戦場でワルツを』


 1982年になぜイスラエル軍がレバノンに進駐していたのかを説明するには、イスラエル建国とパレスチナ問題から語り起こさなければならない。

 ユダヤ国家の誕生によって父祖の地を追われたパレスチナ人は、PLO(パレスチナ解放機構)を結成してイスラエルとの武力闘争を開始したものの軍事的にはまったくの劣勢で、中東戦争でイスラエル軍に敗れたアラブ諸国も戦争による解決を事実上放棄した。そのためアラファト率いるPLOはヨルダンの首都アンマンに拠点を構え、ハイジャックなどのテロによる抵抗運動に走った。

 PLOの過激化に危機感を抱いたヨルダンのファイサル国王は1970年、武力によるPLO排除を決意した。両軍の衝突はヨルダン内戦(黒い九月事件)と呼ばれるが、ヨルダンの正規軍にPLOは歯が立たず、エジプトのナセル大統領の仲介で、受入れを表明したレバノンに本部を移すことになる。レバノンは歴史的にはパレスチナと一体で、PLOへの国民の同情が強かったためだが、多数の武装勢力が国内に流れ込んできたことが「宗教の博物館」と呼ばれたモザイクのような社会のバランスを崩すことになる。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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