「かなりお買い得になっていますよ」――。築地関係者がこう話すのは、カニやウニ、フグなど、1キログラム当たり数千円で取引される、いわゆる高級食材だ。原油高、資材高によって、世界的な食料価格高騰が続いているにもかかわらず、高級品に関しては逆に弱含みというから興味深い。

 先週、日本銀行は10年ぶりに景気判断を「停滞」に下方修正するなど、日本経済はいよいよ不況に突入した。個人消費低迷も顕著で、百貨店や外食産業の業績も落ち込んでいる。

 そんな状況下にあって、消費者が真っ先に削るのは「贅沢品」。全国から築地にやってくる高級食材は、「まるで高値が付かなくなってしまった」と水産卸関係者は頭を抱える。

 たとえばタラバガニやズワイガニは、日本近海の水産資源減少によって、漁獲高がすっかり落ち込んでいる。供給が細っているのに価格が上がる気配はいっこうにないというから、需要減退はそうとうに深刻だ。

 寿司屋の高級ネタの代名詞であるウニに至っては、値段が安くなって採算が合わないため、漁師が獲らなくなってしまった。築地におけるウニの取扱金額は過去1年間で国産品、輸入品を合わせて約94億円だったが、大手卸関係者によれば「15年ほど前の3分の2にすぎない」。

 アラスカ産のイクラのように、新興国の金持ちが高値で買いあさるため、日本人がほとんど買えなくなってしまった食材もある。

 バブル崩壊以降、街の寿司屋や料理屋は減少の一途をたどっており、ただでさえ長期低迷が続いている。そこに景気減速が追い打ちをかけた格好だ。

 7月15日には全国の漁船が一斉休漁、今月もサンマ漁船が操業停止するなど、水産業界は疲弊し切っている。世界に誇る魚食文化は、いまや風前の灯である。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 津本朋子)