ビジネスホテルは進化し続けている。機能的で清潔感があり、リーズナブルな「宿泊特化型ホテル」が人気を博し、ホテル間の競争も激化している。では利用者は、ビジネスホテルのどの点に留意して選択すればよいのか。コストパフォーマンスを主眼に、年間200泊を実行する、気鋭のホテル評論家の瀧澤信秋氏に、ホテル選びの極意を聞いた。

ホテル評論家
瀧澤信秋氏

1971年生まれ。ホテル専門情報メディア・ニュースサイト「Hotelers(ホテラーズ)」編集長。宿泊者・利用者目線からホテル全般に対する調査研究、提言を行う。『ホテルに騙されるな! プロが教える 絶対失敗しない選び方』(光文社新書)を出版。

 もともと日本では長い間、ホテル業態の区分として、「シティホテル」と「ビジネスホテル」という表現が使われてきた。元来この区分は、レストランや宴会場などのコミュニティ機能を持つか持たないかという、機能面から見たホテル業界の区分である。

 だが1990年代以降、ホテルの業態は細分化され、もはやシティホテル・ビジネスホテルという二つの表現では区別しきれなくなった。「外資系ラグジュアリーホテルが国内に進出し、機能的で清潔な宿泊特化型ホテルが出現した後は、シティホテル=高級、ビジネスホテル=一般、というイメージは崩れています」と瀧澤信秋氏は説明する。

進化する
宿泊特化型ホテル

 ビジネスホテルの進化形、宿泊特化型のホテルが成功したのは、徹底したコストカットを意識し、料飲部門などを持たずに、宿泊に特化したことによる。そこでは低価格で実現する近代的な合理性や利便性に加え、宿泊者目線での眠りや快適性が追求された。

 だが2000年を過ぎると、それだけでは物足りなさを覚える客層が出てきた。登場したのは、宿泊料金は1~3割高いが、プラスアルファの設備やサービスを備えたコンセプトホテルである。「例えば天然温泉の大浴場があったり、ベッドのグレードを上げたり、デザインや館内照明を工夫して眠りの悦楽を追求したり、いわば“付加価値型”のホテルです」。瀧澤氏はこれを「宿泊主体型ホテル」と呼ぶ。

 サービスを競い合うことで、宿泊特化型と宿泊主体型の境界は次第に曖昧になっていく。両者に共通するのは、大浴場の利用や朝食における「無料」というキーワードだ。「特に朝食の無料化は進化していて、当初パンとコーヒーくらいだったものが、今はブッフェスタイルで品数やパンの種類も豊富というホテルが増えています。逆にあえて朝食を有料化し、地産地消の食材を使ってエンターテインメント性を持たせているホテルも出てきています」

ベッドメーキングの
スタイルで見極める

 宿泊特化型・主体型ホテルでは、朝食だけでもサービスのバリエーションが多彩になっている。要は利用者がホテルのサービスの何を重視するか、「ホテルの価値は利用者が決める」のが原則なのだ。

 では具体的に、どのような点に留意すればよいのか。

 瀧澤氏が注目するのは「デュベスタイル」と呼ばれるベッドメーキングだという。

「“デュベ”とはフランス語で羽毛布団という意味ですが、ここでいう“デュベスタイル”とは、掛け布団をボックス型のシーツにくるんで、布団が直接肌に触れないようにしているスタイルのこと。シーツがめくれる心配がなく、常に体に触れる部分が清潔に保たれているのが特徴です」

 従来の一般的なベッドメーキングは、掛け布団とマットレスの間に1枚のシーツを挟み込むだけの「スプレッドタイプ」といわれるもので、寝相が悪いとシーツが剥がれ、“使い回しの掛け布団”が肌に触れてしまう。清潔感を気にする女性客には、デュベスタイルを好む人が多いという。サイトなどで客室の写真を見てベッドの足元に「フットスロー」という布生地が掛けられていれば、そのホテルがデュベスタイルを採用していることがわかる。眠りの質はベッドメーキングも大きく関係しているのだ。

 この他、瀧澤氏は、パイル地で清潔感が人気の「お持ち帰りスリッパ」か、またはクリーニングして再使用する「ウォッシャブルスリッパ」を採用しているかどうか。また、空気清浄機を備えているかどうかでホテルを判断するという。

「この3点を、宿泊者目線で実現しているビジネスホテルは、まず間違いがないと考えていいと思います」