橘玲の日々刻々 2014年4月28日

出版界が”ゴーストライター”の
悪弊を改めるのは問題があるのか?
[橘玲の日々刻々]

 “日本のベートーベン”の曲を別人が作曲していた問題で、ゴーストライターの存在が議論を呼びました。出版界では代作者を使って本を出すことが慣行になっていますが、「作曲家のゴーストライターがあれだけ批判されるのなら、出版物も同じではないのか」というのです。

 もちろん、芥川賞や直木賞の受賞作を他人が書いていたら社会的な事件です。ゴーストライターを使うのは芸能人やスポーツ選手のような文筆を生業にしているわけではないひとや、多忙な企業経営者など執筆時間のないひとですから、今回の事件と同列に語ることはできません。その意味でゴーストライターが社会的に容認されてきたのは確かでしょうが、「そんなこと(芸能人やスポーツ選手がゴーストライターを使っていること)は誰でも知っている」という擁護論には違和感があります。

 こうした主張は、「プロレスが真剣勝負でないことは誰でも知っている」というのに似ています。力道山の時代はもちろん、ジャイアント馬場やアントニオ猪木の全盛期も、プロレスラーは真剣勝負をしているとみんな信じていました。しかし徐々にプロレスが「筋書きのある格闘技」だということが広まり、1990年代になるとプロレスを芸能の一種として、レスラーが“筋書き”をいかに上手く演じたかが批評されるようになりました。

 しかしこうした“おたく的”プロレス論の隆盛とは裏腹にプロレスは衰退し、K1のようなシュート(真剣勝負)が主流になっていきます。誰もがやらせだと知っていたわけではなく、プロレス人気は「真剣勝負であってほしい」と願うファンに支えられていたのです。だとしたら、「本人が書いたと思っている読者なんて一人もいない」といって済ませていいのでしょうか。

 問題はそれだけではありません。

 芸能人やスポーツ選手の本のほとんどがゴーストライターの手によるものだとしても、なかには自分で文章をつづるひともいるでしょう。しかしいまのままでは、そうした努力も有象無象の“ゴーストライター本”と一緒にされてしまいます。擁護論には、「芸能人やスポーツ選手に本なんか書けるわけがない」という傲慢さが見え隠れしています。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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