変えられるのは「社員の意識」だけ

 別々に喫茶店を出て、夕方の街を会社に向かって歩く沢井の頭のなかは、藤村次長との話のようにすっきりしたものではなかった。心の底に、取締役選任に洩れた不満がまだこびりついている。だが腹心の部下となる藤村にそんな気配は見せられない。だから精一杯明るく、前向きに話したつもりであった。

 明るく、前向きにと努めたその話し合いが、沢井の心に微妙に影響していた。

 現有設備、現有人員で赤字を黒字に──設備は変えられない。とすれば、設備面からの方策はあまりあてにはできない。残るのは人間だけだ。

 太宝工業の社員たちは、その能力を十分に発揮してくれているのか。そのように今までの経営者は人間を管理してきているのか。そのうえでの赤字なのか。

 夕方のビル街を忙しそうに歩く人ごみのなかで、沢井は、人間にしか突破口はないと思った。彼の頭のなかで、問題が次第にはっきりしてきた。同時に、その問題解決(目標への挑戦)に対する興味が次第に湧いてきたのである。
第3回につづく)


<書籍のご案内>

【プロローグから第1章までを公開!(2)】<br />新たな設備投資、人員投入なしに<br />赤字から黒字を目指す<br />

『黒字化せよ! 出向社長最後の勝負』

実話をもとにした迫真のストーリー!
人が燃え組織が燃える! マネジメントの記録

■ストーリー■
大企業で役員目前だった沢井は、ある日突然、出向を言い渡される。出向先は万年赤字の問題子会社。辞令にショックを受けつつも、1年以内に黒字化することを決意した沢井だが、状況は想像以上に悪かった。やる気のない社員、乱雑で老朽化の進む職場…。しかし、新しく人を雇ったり設備投資をするような予算はない。今ある人材、今ある設備で黒字化できるのか。(本書は、『黒字浮上! 最終指令』〈小社刊・1991年〉を改題・改訂したものです)

ご購入はこちらから![Amazon.co.jp] [紀伊國屋BookWeb] [楽天ブックス]