株式レポート
4月30日 18時0分
マネックス証券

スタイル分析 - 広木隆「ストラテジーレポート」

クオンツ・ショック

<「一体何が起きているんだ」。最初に変化に気付いたのは、証券会社などで高度な数学モデルを使って市場動向を定量分析し、有効な投資戦略を構築する「クオンツ」と呼ばれる人たちだった>

先週金曜日の日経新聞・マーケット総合欄のコラム「スクランブル」冒頭の部分である。

株価収益率(PER)、株価純資産倍率(PBR)、時価総額…。クオンツは様々な指標で銘柄を分類し、株価を監視。どの指標が投資に有利かを探っている。それが、3月19日を境にそれまで有効だった指標が効かなくなったのだという。

この記事を目にした僕の脳裏には7年前の悪夢が蘇った。2007年8月8日。それまで有効だったファクターが突如として機能しなくなったのだ。機能しなくなったというより「逆効き」を始めたといったほうがいい。つまり、株価収益率(PER)、株価純資産倍率(PBR)などのいわゆる「バリュー(割安)」系指標で、割安とされるものが叩き売られ更に割安となる一方、割高とされる銘柄が買い上げられて一層割高度合が増したのである。

割安銘柄をロング(買い持ち)、割高銘柄をショート(空売り)していたロング・ショートのヘッジファンドは「また裂き」状態になって壊滅的な痛手を被った。著名ファンドでさえも、なかにはこの時のドローダウンが原因で閉鎖に追い込まれたファンドもあった。

のちに「クオンツ・ショック」と呼ばれるようになったこの異変は、一般のひとにはあまり知られていない。当時、僕はクオンツモデルでロング・ショートのヘッジファンドを運用していたから、「実体験」として知り得たわけであり、相場を張っていてあの時ほど背筋が凍りついたときはない。リーマンショックやブラックマンデー以上の衝撃だった。

厳密にいうと8月7日から異変は起こっていたのだが、まだそのマグニチュードはそれほど大きくなく、自分のファンドへのインパクトも無視しえるものだったから、たいして気にもとめていなかった。ところが8日に最初の一撃がきたかと思うと、翌9日はメガトン級の激震となった。この時も一般にはまだ知る人はいなかった。なぜなら、日経平均は8日に107円高、9日にも141円高と一見するとマーケットはとても安定していたように見えたからだ。ところが10日になると日経平均も400円を超える下げに見舞われる。市場内部で起きていた異変がついに市場全体に伝播した(専門的に言うと、<アルファ>のレベルで起きていた異変が<ベータ>に波及した)のであった。

8月8〜10日の「クオンツ・ショック」は、これまで効いていたファクターが逆回転を起こすという異常であった。どれほど異常かというと、確率的には5σ(シグマ)以上、数千年に一度しか発生しない頻度の現象であったのだ。それほどの異常事態でありながら、あくまでファクターレベルでの異常であり、市場全体は一見すると「無風」のように見えたから大きな騒ぎにはならなかったのだ。しかし、それほど異常なことが起きてマーケットが安泰でいられるわけがない。その一週間後のことである。8月15日、日経平均は369円安したかと思うと、翌16日にも327円安と大幅続落。そして17日はついに874円安と1日で5%を超える急落となった。この3日間で日経平均は1500円を超える大暴落となったのである。

この2007年8月、真夏の激震は、のちに「パリバ・ショック」として語られることになる。確かに、パリバ・ショックの発生は、2007年8月9日、サブプライムローン関連の証券化商品の市場混乱をきっかけに、BNPパリバ傘下のファンドが投資家からの解約を凍結すると発表したことによる。しかし、その時点では上で見たように日本株式市場は(少なくとも指数レベルでは)平穏だったのだ。

パリバ・ショックと時を同じくして同様のことが当時世界最大級のヘッジファンドだったゴールドマンサックスの「グローバル・アルファ」にも起きていた。同ファンドがポジションのアンワインド(巻き戻し)を行ったことで世界的にファクターの逆回転が強烈に起きた。その<アルファ>レベルの異変が<ベータ>、すなわち市場リスクに発展し、相場が急落したというのが背景である。

この記憶が鮮烈に脳裏に焼き付いているだけに、前掲「スクランブル」の記事の<それまで有効だった指標が効かなくなった>という文言にはナーバスになってしまったのだ。すわ、クオンツ・ショックの再来か?と身構えてしまったのだ。
ファクターリターン

ところが、どうも自分の「肌感覚」に合わない。日経の記事が指摘するのは、成長(グロース)株から割安(バリュー)株に物色動向が変わったというものだ。成長株売り・割安株買いなら、PERやPBRの低い銘柄が上昇し、PERやPBRの高い銘柄が下落するはず。ところが、話がややこしいのは、3月以降をみると、確かに米欧ではPERやPBRが低い銘柄群ほど株価が上昇する傾向が見られたが、日本ではその傾向は見られないというのだ。その代り、1つだけ米欧日で共通した傾向があると記事は指摘する。それは過去1年のリターンが低い不人気株が最も買われ、人気株が売られるというもの。いわゆる「リターン・リバーサル効果」である。

この「リターン・リバーサル」とバリュー効果の復活というのは、しっくりとくる。合点がいく。米国では、いわゆる「モメンタム株」という足元の業績を無視して成長期待だけで超割高な水準まで買い上げられた銘柄の調整が起こっている。そして、それらはいままで市場のけん引役だった。ずっと市場をアウトパフォームしてきた成長(グロース)株=モメンタム株が調整し、割安(バリュー)株が比較優位を保つ。これが米国市場で見られる現象だ。

日本ではどうか。<ダイハツ工業、SUMCO、クラレ……。3月以降に日本で最も上昇したのは、過去1年最も下がった銘柄群と一致。広島銀行や中国銀行など地銀株も目立つ>と「スクランブル」の記事は指摘する。

確かに日本でも「リターン・リバーサル効果」が見られる。しかし、それと同時にバリュー(割安)系ファクターも効いているのだ。この点が「肌感覚」に合わないと述べた理由だ。

僕はQUICKのAstra Manager を使ってファクターリターンを計算している。ファクターリターンとは、個別銘柄のリターンとその個別銘柄が有している指標、例えば時価総額、予想 PER、売上高、売買高など(つまりこれらが「ファクター」である)をクロスセクション回帰分析して得られる回帰係数である。 簡単に言うと、銘柄のリターンをそれらのファクターでどれだけ説明できるかを調べるものだ。



3月から4月第4週(25日)までの結果は表1に示した通りである。「累和」を見るといずれも1を超えている。これは計測期間を通じて非常に大きな効果が見られたということである。ちなみに、EPというのはPERの逆数、BPというのはPBRの逆数だ。PERは計算式の性質上赤字会社で計算できなくなることや、利益が小さい会社でPERが異常に大きな値になってしまうことがあるので、この手の分析では逆数を用いるのが常識である。PBRも自己資本が小さい会社で異常に大きな値になってしまうから逆数を用いる。

さて、もう一度、「累和」を見ると、絶対値の大きい順に、「過去1年リターン」、「BP」、「予想配当利回り」、「EP」となっている。「過去1年リターン」のファクターリターンがマイナスということは過去1年のリターンが高いものほど計測期間にマイナスのリターンとなったということであり、逆張り、すなわち「リターン・リバーサル」が有効だったということを示している。それと同時に「BP」、すなわちPBRや「予想配当利回り」も有効だった。




「EP」、すなわちPERもトータルでは高いファクターリターン値となっているが、日次の値を確認すると、結構不安定である(グラフ4)。特に3月24日には大きなマイナスの値が出現しており、その時はPERで測ったバリュー銘柄は大きくやられたということになる。「EP」ファクターのt値のみが2に達していないので、「EP」のファクターリターンは不安定で、統計的には効果があったとは言い切れない。
リターン・リバーサルとバリュー効果

このデータから、この間の日本株式市場においては、「リターン・リバーサル」の動きが確認されたが、それと同時にPBRで測った割安株優位の展開でもあったと言える。「リターン・リバーサル効果」と「バリュー効果」が併存したのである。ここで思い出されるのが、2005年に『年金情報』に掲載された浅野幸弘・横浜国立大学教授(肩書は当時)の「意味のないスタイル分析」という論文である。なにしろ当時は産学共同で推進してきたスタイル分析がようやく定着してきたころだ。そんな時、日本のファイナンス界の大御所である浅野教授が「意味がない」などと言ったものだから相当な物議を醸したものであった。

スタイルについてはバリューのほうがグロースより平均的にはリターンが高いことがよく知られているが、浅野先生は「それは単純な理由」によるという。先生の主張はこうだ。BP(PBRの逆数:前出の通り)に従って銘柄を分類した場合、BPが高いものはバリュー株、低いものはグロース株となる。ところが、分子のB = 1株純資産はあまり動かないので、分類は分母であるP = 株価の短期的な変動によって決まることになる。株価が上がったものはBPが低下してグロースに、逆に株価が下がったものはバリューになる。しかも、短期的な変動はその後調整され、上がったものは下がり、下がったものは上がる傾向がある。となると、上がったものを含むグロースはリターンが低く、下がったものを含むバリューはリターンが高くなる。

こうした株価の短期変動による分類変更の影響を除去した場合、スタイルによるリターン格差はほとんどないという実証検証も報告されている。

僕はここでスタイル分析の有効性について議論を蒸し返そうというのではない。指摘したい点は、「株価が上がったものはBPが低下してグロースに、逆に株価が下がったものはバリューになる」ということだ。だから株価が下がったものほどリターンが良い「リターン・リバーサル」が起きるときには、往々にしてバリュー株のリターンが良いというのはむしろ自明のことなのである。

ここで観察した期間、3月〜4月第4週は「リターン・リバーサル効果」と「バリュー効果」が併存した、と述べたが、それは恒常的に見られることだ。過去60カ月と長期間、同様にファクターリターン分析を行い、「過去1年リターン」と「BP」の相関係数を調べると、-0.68であった。ほぼきれいな逆相関である(グラフ5)。



上がったものは下がり、下がったものは上がる。それが株式市場だ。そこに「バリュー」だの「グロース」だの理屈を持ち出してもあまり大きな意味はないのかもしれない。

浅野先生の論文に戻ると、先生はこう述べられている。「グロースとバリューで、株式評価の仕方が変わるわけでもあるまい。将来のキャッシュフローを予測して、その割引現在価値を求めるということではなんら変わりはない。将来のキャッシュフロー、すなわち成長性の予測が株式投資の根幹であり、たまたまそれが高かったものがグロースになっているだけだ」(『年金情報』2005年10月17日号)

結局、バリュー株であれグロース株であれ、将来の予想キャッシュフローを現在価値に割り引くのが株式評価=バリュエーションの基本だという。その割引率、すなわち金利にフォーカスが当たった結果、バリュエーション調整が起きた。それが今、市場で起きていることの背景である。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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