経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第54回】 2014年5月13日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【國領二郎氏×武田隆氏対談 1】
「匿名経済」から「顕名経済」へ

消費者の“顔が見える”市場に向けて

この連載もついに丸2年を迎えました。昨今のソーシャルメディアの発展によって、消費者だけでなく、企業の積極的な参加が当然の世の中になっています。ソーシャルメディアを介してコミュニケーションが発生したことで、消費者と企業の関係にも日々さまざまな変化が起こっています。
このように、私たちを取り巻く状況は大きく変化している一方で、変化していないことも存在します。いったい何が変わり、何が変わっていないのでしょうか。
本連載は今後、月1回、テーマに沿って、産学各界でご活躍のキーパーソンとの対談をお届けしていきます。引き続き読者の皆さんと一緒に、現在についての考察を深めていきたいと思います。

「三人寄れば文殊の知恵」で生まれたアイデアは誰のもの?

武田 今回は、慶應義塾大学 総合政策学部教授の國領二郎先生をお迎えしています。「コラボレーション」は最近よく耳にする言葉ですが、いったいどういったものなのか? 私は國領先生の『創発経営のプラットフォーム』を読んで、コラボレーションという現象を構造的に理解することができました。

國領二郎(こくりょう・じろう) 慶應義塾常任理事、慶應義塾大学総合政策学部教授。1982年東京大学経済学部卒業。日本電信電話公社入社。1992年ハーバード大学経営学博士。1993年慶應義塾大学大学院経営管理研究科助教授。2000年同教授。2003年同大学環境情報学部教授。2006年同大学総合政策学部教授。2009年同大学総合政策学部長。2013年慶應義塾常任理事。主な著書に『オープン・ネットワーク経営』(日本経済新聞出版社、1995)、『オープン・アーキテクチャ戦略』(ダイヤモンド社、1999)、『オープン・ソリューション社会の構想』(日本経済新聞出版社、2004)、『ソーシャルな資本主義』(日本経済新聞出版社、2013)がある。

國領 コラボレーションは今の時代に不可欠なテーマです。『創発経営のプラットフォーム』はSFCの「プラットフォームデザインラボ」に所属する研究者が個別に行っていた研究に、一本の横串を通すため編集した本です。本のテーマとして、プラットフォーム上でいったい何が起こっているのか考えたところ、やはり「創発現象」が起こっていると捉えるのが一番いいということになったんです。

武田 「創発」についてもう少し詳しく教えてください。

國領 『創発経営のプラットフォーム』でも書きましたが、創発とは、「多くの要因や多様な主体が絡まり合いながら、相互に影響し合っているうちに、ある時にエネルギーの向き方が一定方向にそろって、当初は思いもよらなかった結果がポンと現出する」という現象です。

武田 みんなが集まってワイワイやっているうちに、それまで思いつかなかったアイデアが生まれることがあるということですね。

國領 そうです。そもそも「創発」という言葉は、“emergent(立ち現れる、出現する)”の名詞形“emergence”という単語がもとになっています。

武田 例えば、ある晴れた日に3人が集まって、このあとの午後の時間をどう素敵に過ごすかについて議論しているとします。ひとりが「今日はいい天気だねー」と言って、もうひとりが「どこかオープンカフェに行かないか?」と提案し、最後のひとりが「そうだ。近くのお寺で境内をカフェにしていると聞いたから、そこに行ってみないか?」と言い、「それはおもしろそうだ」とみんなで行ってみたところ、とても楽しい時間を過ごせた。これも……。

國領 はい。日常に見られる創発現象です。

武田 このとき、この素敵な午後は、誰のアイデアのおかげか? 「いい天気」だと状況を分析した人、「オープンカフェ」という方向を示した人、「境内のカフェ」という具体を提案した人、またそのアイデアに賛同を示した誰か……。

國領 そう。創発によるアウトプットは、誰かひとりに還元することは難しいのです。

武田 参加者の総和を超えたものになるんですね。

國領 そうです。創発的に生まれた現象は、単なる足し算ではなく新しい価値が生まれる。しかし、ここはけっこう難しい部分でもあります。会社でも、会議である企画が生まれたとき、誰の手柄か明確にしにくいですよね。

武田 はい。会議で生まれたアイデアについて、参加者が「これは自分が言ったことだ」と主張し始めると、みるみる場のコラボレーションのレベルが落ちていく。それは実感としてあります。私たちの会社でも「アイデアの所有をやめよう!」とお互いに声をかけ合っています。

國領 ネット上でも人が集まってわいわいやっているうちに、何かができあがることがあります。それがいったい誰のものなのかというのは、難しいけれどおもしろい議論です。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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