ただでさえ不安定な米国市場で、トヨタに吹く逆風が一段と強まっている。GMとの合弁工場の閉鎖決定に伴う対トヨタ感情の冷え込み、そこに覆いかぶさるように「レクサス」のフロアマット問題が起き、それが連日報道され、11月25日には400万台以上を対象する大規模な無償交換措置の発表に追い込まれた。品質の高さと雇用創出力で米国人の尊敬を一身に集めてきたトヨタのブランドイメージにいったいどのような変化が起きているのか。また、販売への影響は深刻化するのか。米国を代表する自動車ジャーナリストの視点を紹介しよう。(文/ポール・アイゼンスタイン、翻訳/ダイヤモンド・オンライン編集部 麻生祐司)

 11月第4週といえば、米国では感謝祭の休暇を取り、七面鳥に舌鼓を打ち、ワインやビールあるいはコカ・コーラを片手に、家族や愛する人と感謝すべき物事のリストを上げ穏やかな気持ちで過ごすのが通例である。しかし今年、米国トヨタの社員たちは、リーマンショック後の昨年の感謝祭時にも増して、そういう気分にはなれなかったのではないだろうか。筆者の知人も、見るからに、“ダウンビート”な様子だった。

 去る11月24日。感謝祭のわずか2日前、トヨタは米連邦高速道路交通安全局(NHTSA)に、米国で販売したピックアップトラック「タンドラ」約11万台のリコール(無料の回収・修理)を届け出た。対象は2000~2003年モデルの一部で、冬に道路にまかれる凍結防止用の塩の影響によって車体フレームが腐食すると、スペアタイヤの脱落や後輪ブレーキの不具合を招く恐れがあるという。

 タンドラのこの問題は限定的なものであり、“平時”ならば、米国でも新聞中面のビジネス欄にほんの小さく取り上げられただけで済んだだろうが、今回は違った。

 周知の通り、今年8月に米国で「レクサスES350」のアクセスペダルがフロアマットに引っかかったことが原因とされる死亡事故が発生。米国での報道の過熱を受けてNHTSAが事態を重く見たこともあってか、トヨタは9月下旬に事故の恐れのある車種を公表し、10月から所有者に対してフロアマットを車両から取り除くよう求める対策を実施していた。トヨタ車の安全にまつわるどんな小さな話にも米国人は敏感になっていたのである。

 そして翌25日、大きなニュースが米国を駆け巡った。400万台以上を対象とする過去に類のない“無償交換”の発表である。