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『戦争報道 メディアの大罪』翻訳者が語る

【第54回】 2009年4月13日
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戦争報道 メディアの大罪
『戦争報道 メディアの大罪―ユーゴ内戦でジャーナリストは何をしなかったのか』ピーター・ブロック[著]田辺 希久子[訳]柴宜弘[解説]定価3360円(税込)

 ユーゴ内戦といえば、主な戦闘が終わってほぼ10年。その間に同時多発テロ、アフガン戦争、イラク戦争などがあり、記憶のかなたに過ぎ去った感のある紛争、というイメージが強いかもしれない。そんなテーマを取り上げた3月の新刊『戦争報道 メディアの大罪――ユーゴ内戦でジャーナリストは何をしなかったのか』をご覧になった読者は、なんで今ごろ……と思われることだろう。

 ユーゴ内戦を扱ったこの本は、実は企画の段階から今回の出版にいたるまで、なんと10年以上の歳月がかかっている。余談めいてしまうのだが、一人の編集者の情熱を物語るものとして、ここにその経緯を記すことを許していただければと思う。

 頭がいたくなるほど複雑なユーゴ内戦の経緯は、本書に掲載された東京大学大学院の柴宜弘教授の解説にわかりやすくまとめられている。

 ヨーロッパの火薬庫と呼ばれるバルカン半島で起きたこの紛争では、ユーゴスラビアという連邦国家からスロベニア、クロアチア、そしてボスニア・ヘルツェゴビナが次々と分離独立。とくに戦闘に巻き込まれたサラエボ市民のようすがCNNによって放映されたり、大規模な殺戮がエスニック・クレンジング(民族浄化)という恐ろしい名で呼ばれたりして、世界中に衝撃を与えた。

 つい昨年の2008年には、今も国連平和維持軍がとどまる第四の紛争地、コソボが独立を宣言、また戦犯に指名されたボスニアのセルビア人勢力の指導者、ラドバン・カラジッチ(本書にも登場)が12年にわたる逃亡生活ののち逮捕されたこともあり、当時を思い返された方も多かったと思う。

 本書はこのユーゴ内戦を“ジャーナリストの報道姿勢”という視点から分析した問題作である。

 原題は“Media Cleansing: Dirty Reporting―Journalism and Tragedy in Yugoslavia”(メディア・クレンジング――汚れた報道――ジャーナリズムとユーゴスラビアの悲劇)、著者はピーター・ブロックPeter Brockといい、フィラデルフィア・インクワイヤラー紙などで活躍したベテランのジャーナリストである。執拗なまでの関係者へのインタビュー、4000本にのぼる記事の洗いなおし、そして現地取材という徹底した事実の積み重ねによって彼が描こうとしたもの――それは西側メディアがになった「戦争参加者としての役割」である。ムスリム人のみを被害者、セルビア人のみを加害者とする一方に肩入れした報道、一方の主張をうのみにして、反対陣営からも裏をとるというジャーナリズムの鉄則を破ったこと、不確かな伝聞のみに頼ったり、完全なる捏造を行ったりしたことを、この執念の労作は立証していく。

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